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2016.11/13(Sun)

さよならをするために ④

「ああ、南部さん。よかった。あんまり遅いから、今呼びに行こうと思ってたところよ。」
交信室の前まで行くと、ユキが笑顔で近づいてきた。
「ごめん。ちょっと、他で用事があったもんだから。」
南部は、適当に言い訳した。
「後は、古代くんだけね。」
乗組員名簿を片手に、ユキはため息をついた。
─古代は、来ないよ・・・。森さん、古代のこと、知らないのかな・・・?

南部も、ユキに気付かれないように、そっとため息をついた。

─本当は、俺も来るつもりなんて、なかったんだ。でも、古代にあんな風に言われると・・・。

交信室の前に長く延びていた人の列は、もう、あと5人ほどになっていた。
南部は、整理のつかない心の内をごまかすように、ユキに話しかけた。

「森さんは、もう地球との交信は済ませたの?」
「ええ。手の空いた時に済ませたわよ。」
ユキはにっこりとほほ笑んで、南部を見上げた。
─森さんって、きっと育ちがいいんだろうな・・・。
南部は、ユキの屈託のない笑顔が好きだった。
こんな殺伐とした、明日をも知れない戦いの中にあって、ユキはいつも温かい笑みを向けてくれる。

「きっと、ご両親は心配してるんだろうね。」
南部の言葉に、ユキの表情は複雑だ。
「ええ。パパとママの顔を見たら・・・。悲しくなっちゃって。少し、泣いちゃった。」
そして、ふふっと笑った。
「でもママったら。お見合い写真ばっかり見せるんですもの。」
南部は、あまりに意外なユキの言葉に、思わず吹き出した。
「ええっ?森さん、結婚するの?」
「まさかあ!結婚なんてしないし、第一、お見合いなんてしないんだから!」
ユキは、真っ赤な顔をして口を尖らせた。
南部は、ユキのそんな表情をみて、思い当るところがあった。
「へえ。森さん、もしかして、ヤマトの中に誰か好きな人でもいるの?」
「ちょっと!南部さんまで!もう、知らない!」

─図星か・・・。森さんの好きな人って、アイツかな・・・?それとも・・・。

南部は、ユキに謝りながら、同僚の顔を思い浮かべていた。

     ◆     ◆     ◆ 

そうこうしているうちに、南部の順番になってしまった。
出来ることなら、このまま引き返したい。
─今さら、いったいどの面下げて・・・。
南部の心は揺れ動いていた。

それは、南部が家を出てから、3年という月日をかけても断ち切ることのできなかった、情の証しでもあった。
断ち切ることもできなければ、受け入れることもできない・・・。
その厄介な感情が、南部自身を苛んできたのだった。

ユキは、南部を交信室に押し込んだ。
南部の心のうちの葛藤など、知るはずもない。
南部を、交信機の前に座らせると、その傍で、使い方の説明をしている。
南部は、このタイプの交信機の使い方なら、知っていた。南部だけではない。おそらく、第一艦橋詰めの乗組員はみな扱えるはずだ。
しかし、南部は黙って、ユキが説明するに任せていた。

傍でユキが動くたびに、ふわりと、何か甘い匂いが鼻をくすぐる。
自分には、決して無い匂い─
南部の胸に、説明のつかない感情がこみ上げた。

それは、女の人の匂い・・・。おそらくは、遠い昔に感じたであろう、母の匂いだった。
15:20  |  宇宙戦艦ヤマトのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

さよならをするために ③

並んで座っている二人の間には、重苦しい沈黙が流れた。
古代は、また、元のだんまりに戻った。

その時、一瞬、談話室の明かりが消え、すぐにまた灯った。
ヤマトの夜が、始まる合図だ。

「もう、こんな時間なんだな・・・。」
南部は、ぼんやりと天井の明りを見上げた。
その言葉につられるように、古代も天井を見上げた。
「南部・・・。ごめん。俺、嫌なことを言ったよな。」
「いや。いいんだ。本当のことだから。」
南部は、天井を見上げたまま、長く息を吐き出した。

「古代は、何で戦うんだ?地球のためか?」
「いや。」
古代は、すっと立ち上がった。
「ただ、ガミラスが憎い。それだけさ。」
視線を落として立つ古代の表情は、髪に隠れてよく見えなかったが、その声は、普段の古代からは想像もつかないほど、小さく、消え入りそうな声だった。

「俺は、何不自由なく育った。優しい両親、穏やかな家庭。欲しいものは、何でも与えてくれる。だが、俺は知ってしまった。俺たち家族の平穏な生活は、多くの人間の血の上に成り立っていたんだって。親父はそれを、ビジネスだと言った。需要があるから、供給するんだと。」

古代は、ソファの前に突っ立ったまま、振り返りもせずに、南部の告白を聞いている。

「そして、言ったんだ。戦争と平和は表裏一体だ。平和の裏には、常に戦いがあるんだって。」

そして、南部は苦しそうに、吐き出すように言った。
「それなのに、ガミラスとの戦いが激しくなってくると、自分たちは、一番に地下都市に避難した。平和をもたらすために武器の供給はするが、その戦いは他人に任せるってことさ。」

南部は、手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置くと、両手を膝の上で、ギュッと握りしめた。
「それなら、俺は戦ってやる。実際に自分で戦ってやるって。それで、家を出た。宇宙戦士訓練学校に入学すれば、住むところはあるし、食事も付いてる。おまけに、成績優秀者は、奨学金を受けることだってできる。」

「そうか。」
古代は、飲み終えた紅茶のカップを奥のカウンターに片づけた。
「まあ、理由はどうあれ、俺たちに残された道はほかにないってことさ。この戦いに勝って、イスカンダルにたどりつかない限り、この先、次には進めないんだ。俺も、お前も。」

古代の言葉に不思議な力を感じる。

「俺は、行くところがあるから。じゃ、また後で。」
古代はそう言って談話室を出ようとして、ふと立ち止まった。
「そういえば、真田さんが言ってたんだけど、ヤマトの装甲、発進の2週間くらい前になって急に強度を増す処理をしたって。南部重工側の申し入れだそうだ。おかげで、当初の予定の1.5倍の強度だって、真田さん喜んでたぞ。」
「・・・?」
「2週間前っていったら、俺たちの乗艦が決まったころだよな。」

南部は、息をのんだ。
─まさか・・・!

「どうせ、何も言わずヤマトに乗ったんだろう?別れの挨拶くらい、してくるもんだ。」
「古代…!」
「俺たちには明日はないかも知れないんだ。それに、明日がないのは、地球も同じだろ。お互い、いつどうなるかわからないんだ。生きてるうちに、さよなら、くらい言っとけよ。」
「古代・・・。」

「南部。お前の親は生きてるじゃないか。どんなに憎くても生きてるじゃないか。」
「古代・・・。」
「地球との交信は済ませとけよ。これは班長命令だ。」

古代は、淋しそうに笑った。


15:17  |  宇宙戦艦ヤマトのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

さよならをするために ②

「ふうん。それで、一人でぶらぶらしてたわけだ。」

古代は、南部を一瞥すると、談話室のソファに深く座って、熱い紅茶をすすった。
南部も古代の横に座ると、温かいカップを両手で包んで、そっとコーヒーに口をつけた。古代よりも一回り大きな背中を丸めてコーヒーをすするたびに、眼鏡がうっすらと曇っている。

「なあ、南部。」
古代は手元の紅茶に視線を落としたまま、呟いた。
「地球と交信して来いよ。」
南部は、黙って友人の横顔を見た。淋しそうな顔だった。

「その必要はないよ。」
南部は、抑揚のない声で反論した。
「俺は、自分から家を出たんだ。南部の家とは、もうとっくに縁を切ってる。」

「ふうん。まあ、お前がそれでいいんなら、俺はいいけどね。」

古代が、こんな言い方をするときは、きまって何か言いたいことがある時だ。
何年も寝食を共にしたきた古代の言いたいこともだいたい見当はついた。

南部は、ため息をついた。
「何だよ。言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。」

しかし、古代は俯いたまま、何も言わない。
それっきり黙って、冷めかけの紅茶をちびちびすすっている。

南部はそんな古代の態度に、なぜか無性に腹がたった。そして、一瞬の激情が噴き出した。
「古代、何だよ。何で言わないんだよ!ハッキリ言えよ!」
                                                    
古代は、一瞬驚いて目を丸くしたが、すぐに先程までのポーカーフェイスに戻った。
「お前が、実家の家業を嫌うのは、わかる気がするけどさ。そりゃ、殺し合いの道具を売った金でいい暮らしなんかしたくないよな。」
古代は、南部をまっすぐに見た。
「じゃあ、何で、お前はここにいるんだ。何で銃を持って戦ってる?」
南部は、言葉もなく古代を見つめた。
「俺たちは、南部重工業の技術を結集して作り上げた艦に乗って、南部重工業製の武器を手に戦ってるんだ。それも、否定のしようのない現実だよ。」

古代の言葉は、南部の胸をえぐった。
15:13  |  宇宙戦艦ヤマトのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

さよならをするために ①

宇宙に長くいると時間の感覚が鈍くなる。
あたり前のように昇っては落ちる太陽の光が届かない漆黒の空間だ。ここには、朝も昼も夜もない。
それでは生体リズムが狂うので、ヤマト艦内には、艦内時間が設定されていた。
一日24時間、一応、夜間の時間帯は照明を落とした上で、夜間専用の照明をつけるという念の入れようだ。
しかし、これも、戦闘のない、通常の航海時に限られるのだが・・・。

南部は夜間照明の灯りの下、居住区の長い通路を古代と二人で歩いていた。
二人は、目も合わさず、言葉も交わさず、目的の部屋を目指している。
南部は、部屋の鍵をマスターキーで開けると、照明の落とされた部屋の明かりを手探りでつけた。

部屋の中には、二段ベッドと二つのデスク。
二人用にしては狭い部屋・・・。
突然、主を亡くしたその部屋は、まるで、今日の日を予期していたかのように片付いていた。

「根本・・・。杉山・・・。」

古代は、無表情なまま、ぽつりと二人の名前を呼んだ。
この間の、冥王星基地の破壊工作に参加して、帰らぬ人となった戦友たちは、同室の2人だった。

ベッドを片づけ、デスクの中身を鞄に詰める・・・。
この単純な作業が辛い。つい、昨日まで、ここに息づいていた二人の臭いが浸み込んでいる。

南部も、古代も一言も発せず、小一時間ほどで作業を終えた。
ただ、二人の顔は、悔しさとも悲しさともわからない涙で濡れていた。


     ◆     ◆     ◆

翌日、艦長の配慮により、乗組員全員の地球との最後の交信が許された。
ささやかな、フェアウェルパーティーが催され、みな、今日ばかりは戦いを忘れて楽しんでいる。
交信室の前には、長い列ができていた。

家族の写真を手に手に、賑やかな通路のわきを抜けようとしたとき、南部はユキに呼び止められた。
「南部さん。まだでしょう?」
ユキは、南部も当然交信すると思っているのだろう。
「ああ・・・。また後にするよ。これだけ並んでちゃ、いつになるかわからないだろう?」
南部は、出来るだけ自然に、ごまかした。
「でも、南部さん。できるだけ早く済ませて下さいね。交信の状態は時間ごとに悪くなっているのよ。」
「了解。」
南部は、ユキの手前、本当のことが言えなくて、口先だけで適当に返事をすると、足早にその場を離れた。

しかし、今日ばかりは行くところがない。
この華やいだ雰囲気の中、南部は身の置き所がなかった。
かといって、用事もないのに第一艦橋に戻れば、事情を知らない徳川さんあたりに急かされて、また交信室にいくふりをしなければならなくなる。
考えるのも、億劫だった。

南部は、仕方なく居住区に向かった。
自室で、音楽でも聞いて時間をつぶそうか・・・。
居住区に近い通路で古代に会ったのは、ちょうどそんな時だった。

「おう。南部。お前こんなところで何してるんだ?」
それはこっちのセリフだと、南部も苦笑いだ。

二人は連れ立って、居住区の談話室でコーヒーでも飲むことにした。
古代は、南部の『事情』を知る、数少ない友人の一人だった。

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15:08  |  宇宙戦艦ヤマトのお話  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

秘密 ⑩

「おじい様の、秘書にしてください。」
晶子は、必死だ。
ここに至って、平九郎は覚悟をきめなければならなかった。
「いいだろう。しかし・・・。」
言いかけて、やめた。

─知りたくない事まで、知ることになるぞ・・・。

そんな事は、今の晶子には何の意味もないだろう。

─向こう見ずな・・・。まあ、それも若者の特権か・・・。

「しかし、なあに?おじい様。」
「ああ。」
平九郎は、飲みこんだ言葉の代わりに、もう一つの心配事を口にした。
「お前の父親は、お前が私のそばで働くことを許してくれるかな?それに、大学はどうするんだ?」

息子が軍を嫌っているのは知っている。ましてや、掌中の珠の如く大事にしている一人娘のこと。反対するのは、わかりきっている。

「大学は休学します。お父様にも、ちゃんとお話するわ。」
そして、笑顔で言った。
「もし、それでもお父様が許して下さらなかったら、その時は、おじい様の宿舎に泊めて下さる?」

平九郎は、笑うしかなかった。
「ははは・・・。晶子にはかなわんよ。」

それにしても、と思う。
─どこがそんなに良いのかね。
平九郎は、かすかな嫉妬が頭をもたげてくるのを自覚した。

「そういえば、相原くんは、通信班だったな。」
「まあ、おじい様ったら!わたし、そんなつもりじゃ・・・。」

頬を染めてうつむく晶子の横顔が、まぶしかった。

─いつの間にか、こんなに大きくなって。わしも歳をとるはずだな
                               
チューブカーは、目的のレストランの近くで止まった 。    
    

晶子と連れだって昼下がりの街を歩きながら、平九郎は、ささやかな報復を思いついた。
可愛い孫娘の心をとらえて離さない、果報者への報復・・・。

これからしばらくの間、定時交信の時間には、相原くんには席を外してもらおうか。何か、口実を作って・・・。

祖父の心の内も知らず、あふれる笑みを向ける晶子を見て、平九郎の心はチクリと痛んだ。


しかし、この報復は、実行されることはなかった。
通信機の扱いで、彼の右に出るものはいなかったし、それに、そんな事をして、孫娘を泣かせるようなこともできない。
平九郎は、秘書として忙しく立ち働く晶子の姿が、ただ、まぶしくて、若い二人のこれからを思いやって見守る事しかできなかった。

fin
11:32  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

秘密 ⑨

緩やかなブレーキの反動で、晶子は現実に引き戻された。
車は、住宅街の一角にある小さな雑貨屋の前で止まった。

「少し待っててくださいね。買うものは決めてあるの。10分で戻ります。」

運転手は、にっこりと頷いた。

─カランカラン

こじんまりとした店内には、他に客はいなかった。品数は決して多くないが、洗練された小物類がスッキリと並べられている。人形、時計、ティーセット・・・どれもアンティークの、そこそこ値の張るものばかりだった。

晶子は目的の棚まで進むと、革の表紙の手帳を手に取った。薄茶の表紙の隅には、小さな花の模様が型押しされていた。
そしてもうひとつ、窓際に掛けられた小さなベルを選んだ。扉に掛けて使うのだろうか、ベルから下げられた2本の細い革ひもの先には、小さな蜻蛉玉が幾つか付いていて、開け放たれた窓から風が吹き込むたびにコロコロと揺れて、軽やかなベルの音が響くのだった。

─あの人の風を感じられるかしら・・・。

晶子は、寂しそうに微笑んだ。

     ◆     ◆     ◆

晶子が、本部のロビーに着いたのは13時少し前。平九郎は、15分ほどで現れた。
「待たせてすまないね。」
軍の制服を着た祖父は、少し疲れて見えた。
「いえ。おじい様こそお忙しいんでしょう?」
「まあ、忙しいことは忙しいが、たまに孫と食事をする時間ぐらいはあるよ。」
二人は連れ立って正面玄関を出ると、チューブカーに乗り込んだ。

「店は任せてくれるだろうね?」
「ええ。もちろん。」
平九郎と会うのは、日本アルプスのドックから帰って以来でだった。晶子は、内心、ヤマトのことを聞きたくてしょうがないのだが、なかなか、タイミングが掴めなかった。

「晶子に会うのは、あれ以来だね。」
「おじい様ったら、いくら忙しいからって、1か月以上も家に帰っていらっしゃらないんですもの。」
晶子は、小さな子供がするように、プイっと口を尖らせた。
「まあ。そう怒らないでくれ。色々あってね・・・。」
平九郎は、真面目になると、少し声を落とした。
「情勢は深刻さを増しているんだ。今度正式に、地球移民本部を立ち上げることになってね。私が、その本部長を兼任することになったのだよ。」
その言葉の重さに、晶子も事態の深刻さを感じ取った。
「大変なお仕事ね。」

祖父の顔に浮かぶ、苦悶の色。いつからこんなに深いしわが刻まれていたのだろうか。
晶子は、祖父の置かれた難しい立場を思いやった。
同時に、ヤマトの航海もまた、困難を極めているのだろうと悟った。

「おじい様。私にも何かお手伝いさせて下さらない?一生懸命頑張りますから。」

平九郎は驚いて晶子を見た。
可愛い孫娘は、瞬きもせず、まっすぐに自分を見返してくる。
─とうとう来たか・・・。
平九郎は、あの日、晶子が長官室で、将来は自分も軍の仕事がしたいと言ったときから、いつかこんな日が来るのではないかと覚悟はしていた。しかし、その日がこんな形で、こんなに早く訪れようとは、予想もしていなかった。そして、おそらくその理由は・・・。

─相原くんか・・・。

心の中でひそやかに広がる複雑な感情を押し殺して、平九郎は穏やかに微笑んだ。
11:32  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

秘密 ⑧

南十字島から帰ってからは大騒ぎだった。
両親は、憔悴しきって帰宅した娘を、困惑しきった顔で迎えた。
当の娘は、『大切な知り合いにお別れを言いに行った』としか言わない。
その知り合いが誰なのか、なぜお別れを言いに行ったのか、詳しいことは何一つ明かさないのだ。
その上、ろくに食事もとらずに、部屋に閉じこもったきり、出てこない。
これまでの晶子からは、考えられない行動に、両親は、困り果ててしまった。

平九郎が、一週間ぶりに帰宅したのは、ちょうどそんな時だった。

平九郎は、息子夫婦から大まかな話を聞くと、晶子を呼んだ。
そして、何も知らない顔をして、これからしばらくは、宿舎に泊まりこむことになること、そして、大変な仕事が待っていることを、機密に触れない程度に話して聞かせた。
そして、ヤマトのこと・・・。ヤマトが近く発進する予定であることも・・・。

晶子は、コーヒーカップを手に俯いていたが、平九郎が、ヤマトの名前を出したとたん、弾かれたように顔をあげた。思いつめた顔だった。
「おじい様にお願いがあります。」
「何かね?」
「ヤマトに連れて行って下さい。」


     ◆     ◆     ◆


平九郎は、秘密の保持を条件に、晶子の願いを叶えてやることにした。
─私も、甘いな・・・。
実は、晶子が南十字島に行ったことを、平九郎は知っていた。
ホテル側から、相原を若い女性が訪ねてきたと、防衛軍本部に情報提供があったのだ。その若い女性の様子が、あまりにも不自然だったから、ホテル側が気をまわしたらしい。仮にも、相原は本部詰めの管制官。ヤマトの通信班長は、軍内部でもそれなりの地位にある。本部詰めの士官を、しかも、任地に尋ねる民間人となると、限られてくる。
監視カメラに映っていたのは、晶子に間違いなかった。

それにしても、いつ相原くんと?という疑問は残った。

晶子は、単独で相原の行動を知りえる立場にはない。ということは、内部に、協力者がいる。それが誰なのか・・・だいたい想像はついた。
─ユキか・・・。
平九郎は、ため息をついた。
─相原くんは、カヤの外かな。
結局、すれ違って出会えなかった状況からすると、彼は晶子の訪問を知らなかったと考えるのが、妥当だろう。
─困った子たちだ。

翌日の午後、複雑な表情の晶子を伴って、平九郎は日本アルプスのドックに向かった。
まさか、二人が、空港で偶然出会っていたとは、そのことが、騒動を引き起こしていたとは、さすがの平九郎も知らなかったのだが・・・。
11:31  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

秘密 ⑦

11月にしては、暑すぎる毎日が続いていた。昼前の陽射しが、車の窓から差し込んでくると、汗ばむほどだ。太陽の異常は、早くも地上に影響を及ぼし始めていた。

晶子は、車の窓を半分ほど開けた。生ぬるい風が晶子の頬にあたって、髪を揺らした。
あの日・・・晶子が鞄一つで南十字島に飛んだ日。
二人の運命は動き始めたのだ。
晶子は、窓の外を流れる街を眺めながら、あの日のことを思い出していた。

  ◆     ◆     ◆

晶子が南十字島に着いたのは、ユキからのメールをもらった翌日の朝9時過ぎだった。
タクシーを拾って、教えられたホテルに急いだが、事はそう簡単には運ばない。

相原は、既にチェックアウトしていた。

晶子は、呆然とした。
最後の望みは絶たれたのだ。
もう、涙も出ない・・・。あとは、いつとも知れない帰還の日を待つしかないのだ。

晶子は、空港に戻らざるを得なかった。

疲れた足を引きずって空港のターミナルに入ると、床に落ちた小さな塊に気がついた。
─あらっ?
それは、小鳥の死骸だった。

晶子は、思わずそれを拾い上げた。
小さな骸は、硬く、冷たかった。
そして、今や、晶子の心もまた、硬直していた。
─これは、私・・・。私は所詮、籠の鳥。どうあがいてみても、どうせ、飛び立てやしないのよ。

その時、突然、どこか聞き覚えのある声に呼び止められた。

「どうかしたんですか?」

相原だった。

「あの・・・!」
あまりの事に、晶子は言葉を失った。
この人に会うためだけにここに来たというのに、いざ、本人を目の前にすると、何も言えなくなってしまった。

「可哀そうだから、どこかに埋めてあげたいんだけど、どこにも土がなくて・・・。」
しどろもどろになりながら、咄嗟に思いついたことを口にした。

「滑走路のわきならあるよ。行こう!」
そう言って、先に立って歩く相原の背中を見ながら、晶子はもどかしさに窒息してしまいそうだった。

─あなたに会いに来たんです。
どうしてもその一言が言えない。

晶子は黙って、小鳥の骸を埋めた。相原も何も言わず、それを見つめている。
晶子は、相原の視線を感じて息が止まりそうだった。自分でも訳のわからない感情が暴走して、ちょっとでも気を抜くと、涙がこぼれてしまいそうだ。

晶子は、傍にあった野菊を摘むと、必死に涙を堪えて立ち上がった。
そして、精一杯の笑顔で、一輪の野菊を差し出した。

「小鳥さんからのお礼よ。どうも、ありがとう。」

晶子は、走り去った。
こぼれる涙を見られたくは無かった。

しばらくして、ターミナルの向こうから飛び立つ軍用機が見えた。
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2016.11/13(Sun)

秘密 ⑥

こうして、ユキとの密やかな交流が始まった。
しばらくは、お互い遠慮がちだったメールの内容も、次第に、打ち解けたものへと変わっていった。

ユキは、忙しい合間をぬって、まめに返事をくれた。
やり取りの大半は、ありふれた女の子の会話・・・。もしかしたら、ユキもこんな他愛のないメール交換を、誰かと楽しみたかったのかも知れない。

晶子にしてみれば、ふだん知る事もない、防衛軍本部職員の日常に触れる、貴重な機会だったし、折にふれ、さりげなく知らせてくれる相原の様子にも、心が躍った。

しかし、こんな少女のようなささやかな喜びも長くは続かなかった。

結局、それが最後になってしまったユキからのメールには、今回の緊急招集の件、そして、極秘裏にヤマトが発進する事が手短に記されていた。
『明日、正式に辞令がおります。軍の任務で、南十字島の管制センターにいる相原くんにも、明日の朝一で辞令が下りるはずです。一旦、島を離れてしまったら、ヤマト着任まで、もう彼の行動を把握することはできません。』
そして、こう続けられていた。
『ヤマト着任後は、会うことも叶わないでしょう。帰還の目処も立っていません。晶子さんに、まだ彼を想う気持ちがあるのなら・・・。これが最後のチャンスだと思って・・・。』

メールの最後に記された、南十字島のホテルの住所を見ながら、晶子は、一瞬、気が遠くなるような気がした。
自室の窓から見える午後の海は、次第に霞んで色を失っていく。
押し寄せる後悔の念・・・。

─『次はないかも知れないのよ。』

初めて出会ったあの日に、ユキに言われた言葉が、にわかに現実味を帯びてくる。

─嫌・・・!

晶子は、素早く身支度を整えると、鞄一つ抱えて家を出た。

     ◆     ◆     ◆

─会ってどうするというのだろう・・・。

晶子は、空港に向かう車の中でふと思った。

─何と言って声を掛けたらいいのかしら・・・。

自分の浅ましい思慕を、彼は軽はずみだと笑うだろうか。
しかし、晶子は、すぐに思い直した。

─そんなこと、どうでもいいわ。ただ、会いたいのよ。

晶子は、自分の中に潜んでいた激情に、軽い目眩を覚えた。

「お嬢様。よろしいのですか?黙ってお出かけになっても・・・?」

運転手の穏やかな声が、晶子の意識を引き戻した。

「ええ。」
そして、晶子は、はっきりと告げた。

「お父様とお母様には、私は急用で出かけたと伝えて下さい。明日には戻りますから、詳しいことは、帰ってから説明します、と。」
11:31  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2016.11/13(Sun)

秘密 ⑤

そのあとのことは、よく覚えていない。
ユキに連れられて、平九郎と対面して、そして、どんな話をしたのか・・・。
慌てて走り去った、相原の恥ずかしそうな顔ばかり思い出されて、心ここにあらずだ。

そんな、孫娘の心の内を知ってか、知らずか・・・。
「晶子はここの仕事に興味があるのかな?」
「はい。おじい様。」
晶子はとっさに、口をついて出た自分の言葉に、驚いた。
そして、勢いに任せて言葉をつづけた。
「私、こんな緊張感は、初めて。今まで、私の生活の中にはなかった世界だわ。それに、地球のために働いていらっしゃるなんて、素晴らしと思う。私も、卒業したら、ここで働きたい。」

言ってしまった事は、なかったことにできない。
平九郎が、予期せぬ返答に面食らっている。晶子は、この場を納める術を知らなかった。
一瞬の、気まずい空気・・・。

「失礼します。」
ユキだ。
「長官。そろそろ、ご準備なさってください。定例会のお時間です。」

平九郎は、晶子に、その話はまた、と話を濁して席を立った。
晶子にしても、とっさに出た言葉が、こんな衝撃を与えるとは思ってもいなかったので、ユキの出現に救われたような気がした。

「晶子さん。」
ユキは、平九郎が出て行ったのを確認してから、話しかけた。
「長官は、あなたがかわいいのね。多分、あなたには、辛い思いはさせたくないのよ。」
「ユキさん?」
「ごめんなさいね。さっきも言ったけど、本部内に、プライベートは無いのよ。ここでの会話は、秘書室に筒抜け。」
晶子は、二の句がつげなかった。
「いいタイミングだったでしょう?あれ以上話が」長引くと、あなたが聞かれたくない事まで、秘書室に流れそうだったから。」

─そうだったの。ユキさんは、話の成り行きを見守っていたんだ。何も知らない私が、余計な事をしゃべる前に、止めてくれたということね。

晶子は、もう、驚くのにも疲れてしまった。
黙ってうつむく晶子に、ユキは、優しく微笑んだ。
「さあ。行きましょう。これからのことは、ゆっくり考えるといいのよ。まだ、学生さんでしょう?卒業までに、ゆっくり、ね。」
ユキに連れられて部屋を出た。迷路のような通路を抜けて、正面のロビーにたどり着いた。

晶子は、丁寧に、今日の礼を言った。
本当は、相原のことを聞いてみたい。でも、晶子には、その勇気がなかった。
仕方なく、通り一遍のあいさつをして別れようとしたとき、ユキが、少し考えて、驚くようなことを言ったのだ。

「もし、よかったら、今日の食事会に一緒にいらっしゃらない?長官のこと、みんなには内緒にしててあげるから。私の知り合いっていうことで。」
「えっ・・・。」
「相原くんなら大丈夫。彼、きっとあなたの顔、覚えていないと思うわよ。」

ユキの真意がわからない。なぜ、そんな事を言うのだろう。
─なぜ、急に私を誘うの・・・?

「この次は、ないかも知れないのよ。」

ユキの声が真剣なので驚いて見つめた。
「私たち、そういう世界に生きてるの。いったん事が起これば、すべてを投げうって、宇宙に出ていく。
今は地上勤務だけど、相原くんだって例外じゃないわ。」
「えっ。」
思わず、声をあげた。
「やっぱり。」
ユキは、ため息混じりに苦笑いの顔だ。
「気になったでしょう?彼のこと。」
「そんな・・・。」
晶子は、すっかり見透かされて、恥ずかしさの余り、うつむいた。
「彼、ヤマトで通信長をしていたの。最初の航海からずっとね。今は、本部付きだけど、ヤマト出撃の際には、また最前線に送られるわ。私もね。それは、今日かもしれないし、明日かも知れない。」

ユキは、優しい、いたわりの表情で、黙ってうつむいている晶子を見つめた。
「今日はじめて出会って、好きかどうかなんて、わからないわよね。でも、もし、心に残ったのなら、行動しないとだめよ。特に、彼、自分からは行動しない人だから。」

ユキは、それ以上何も言わなかった。その代り、メールアドレスを教えてくれた。
「私のプライベートのアドレスだから、いつでも連絡して。防衛軍の仕事に興味があるのなら、そちらも何かの手助けになるかも知れないでしょう?」
そして、こう付け加えた。

「このアドレスに関しては、完全に、秘密は守られるから、安心して。」


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2016.11/13(Sun)

秘密 ④

扉の向こうは、まさに、別世界だった。
足早に通路を行きかう人々、インカムを首にかけて談笑する職員。絶え間なく響く電子音と、世界中から送られてくる映像が、洪水の如く画面上にあふれている。

晶子は、その特殊な緊張感に、圧倒されて、立ち尽くした。

─これが、おじい様のいることろ・・・。

晶子は、自分でもわからない感覚に、頭の芯がしびれるようだった。

「晶子さん。行きましょうか。」
ユキに促されて、管制室の傍を離れようとしたとき、一人の職員が声をかけてきた。

「ユキさん。」
「ああ、相原くん。」
「今日、仕事、定時で終われます?」
「ええ。大丈夫だと思うけど。」

それを聞いて、相原と呼ばれた職員は、嬉しそうに笑った。
「じゃあ。空けといて下さいね。」
「まあ。なあに?」
「昨日、南部と太田が火星基地から帰還したんですよ。それで、今日、ここに報告に来た帰りに、みんなでメシでも、ってことになって。島も合流すると思うんで、ユキさんも是非。」
「いいけど。そのメンバー、なんだか怖いわね。」
「えーっ。ひどいなあ。」

ユキは、大げさに肩をすくめる相原に、ちょっと困った顔をして見せた。
「あの、相原くん。いまちょっと、お客様をご案内する途中なんだけど。」

相原はびっくりして晶子の方を見た。晶子もあわてて、頭を下げた。
「あっ。すみません。気がつかなくて。」
そして、慌てて、走って行ってしまった。

晶子は、思わずクスっと笑ってしまった。
ここの空気にそぐわない人だと思った。
張りつめた糸を、僅かに揺らす風・・・そう、風のような人だ。

「彼、相原くんっていうの。仕事は超一流よ。でも、かわいい人でしょう?」

相原の後姿を見送る晶子に、ユキは悪戯っぽくささやいた。


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2016.11/13(Sun)

秘密 ③

はじまりは、偶然だった。
半年前、暗黒星団帝国との戦いが終わり、本格的に地球の復興が始まったころだった。

その日、晶子は、防衛軍本部のロビーにいた。

晶子の通う大学では、3年生になると、将来の職業選択をにらんで、各種研修プログラムに参加することが義務付けられていた。
そこで晶子は、防衛軍での研修に参加することにした。
晶子にしてみれば、深い意味もなかった。幼いころから可愛がってくれる祖父の職場を見てみたい・・・そんな軽い気持ちだった。それに、良家の子女として蝶よ花よと、何不自由なく育てられた晶子だったが、成長するに従って、次第に、息苦しさを感じ始めていた。
─私はこれから、どうしたいのだろう・・・。
それまで、一度も逆らったことのなかった両親への、ささやかな抵抗だったのかも知れない。

晶子の想像通り、父は内心いい気はしなかったが、それでも、娘の意思を尊重するといって、表面上は快く、その研修に参加することを承諾してくれた。

しかし、実際は研修といっても、そこは学生相手のこと、しかも、軍の内部に入り込めるわけもなく、一通りの見学と、簡単な職務内容の説明と体験に終始した。

─こんなことなら、いっそ、おじい様にお願いして、中に入れてもらえばよかったわ。

晶子は、カフェテリアで友人たちと談笑しながら、こっそりため息をついた。
晶子の祖父が、地球防衛軍の長官であることは、公然の秘密だったが、さすがにそれを利用するのは気が引けた。それで、今回の研修のことも、平九郎には黙って参加したのだった。

「お話し中にごめんなさい。」
突然、声をかけられて、晶子がびっくりして振り返ると、防衛軍の制服に身を包んだ女性が、微笑んでいた。
「はい・・・?」
─どこかで、見たことのある人・・・。私、この人・・知ってるわ。
「藤堂晶子さんね。」
端正な顔にスラッとした立ち姿の美しいその女性は、秘書課の森雪、と名乗った。
晶子は慌てて立ち上がって頭を下げた。森雪と言えば、ヤマトの乗組員にして、古代進の恋人。防衛軍の華とうたわれた、憧れの人。周りの友人たちからも、アッと声が上がる。
「今日の研修はもう終わりかしら?」
「はい!あの・・・何か?」
「もし、よかったら、私と一緒に来て下さらない?」
そういうとユキは、ふふっと笑った。

晶子は友人たちに羨ましがられながら、ユキに連れられてカフェテリアを出た。
─いったい、何かしら?
廊下を曲がり、人目のないことを確認すると、ユキは立ち止まった。
「長官が、首を長くしてお待ちよ。」
「えっ。」
晶子は、状況が飲み込めず、ぽかんとした。
「軍の内部にプライバシーは無いわ。」
ユキにこう告げられて、ようやくこの事態を理解した。
「おじい様は、ご存じなのですね。内緒にしてたのに。」
「あなたの事が心配なのよ。それに、とてもかわいいのね。怒っちゃだめよ。」
ユキは、小首をかしげて、優しく微笑んだ。
そして、少し、厳しい顔つきになって晶子を見つめた。
「ここからは、本来、外部の人間は立ち入り禁止なの。私たちでも、高度なセキュリティーチェックをうけるわ。でも、今回は、長官のお気持ちと、あなたの研修生としての熱意を買って、特別に入室を許可します。」
晶子は、さっきまでと打って変わった、厳しい口調に気おされてしまった。自分とそう歳の変わらないこの華奢な女性から発せられるオーラに、一瞬で圧倒されてしまった。
「それと、ここで見聞きしたことは、他言無用よ。それだけは、約束して。これは、あなた自身を守ることでもあるの。」
晶子は、黙ってうなずいた。
─想像以上に厳しい世界・・・。
晶子は、扉のロックを解除するユキの背中を見ながら、自分の甘さを痛感していた。



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2016.11/13(Sun)

秘密 ②

音もなく坂道を下っていく車の中で、晶子は、期待と不安のせめぎ合いに息苦しさを感じていた。
落ち着いて考えてみると、どうして、今日、食事に誘われたのかわからない。

─いつもお忙しいおじい様・・・。最近は、防衛軍の宿舎に泊まりっぱなしで、家にも帰っていらっしゃらないし・・・。特に、今は、私と食事なんかして下さる時間もないはずなのに。

「お嬢様。こちらでよろしいのですか?」
晶子が外出するときは、必ず、彼が運転手だ。幼いころから、晶子の家で運転手として働いていた。年は、もう50くらい、がっちりとした体格で、白髪混じりの頭が温和な印象の男だった。

「ええ。おじい様にお会いする前に、寄って欲しいところがあるの。」
待ち合わせたのは、防衛軍本部のロビー。しかし、晶子はその前に寄りたいところがあった。
車は、静かに、市街中心部に方向を変えた。

─多分、おじい様も気がついていらっしゃる。

自分のために、一時はヤマトを降りようとまで思いつめた人。
平九郎もその場に居合わせた。日本アルプスからの帰り道の平九郎の様子からすると、おそらくは、その騒動を、微笑ましくさえ感じているに違いない。
しかし、晶子が気になるのは、もしかして平九郎は、自分の気持にも気が付いているのではないかということ。つまり、相原が、ではなく、晶子が相原を好きなのだということに、気が付いているのではないか、ということだった。

南十字島での運命的な出会い・・・。
しかし、この出会いには、誰にも言えない秘密があった。



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2016.11/13(Sun)

秘密 ①

晶子は今日も一人、窓辺の椅子に座って、窓の外を見ていた。

東京郊外の高台にある自宅のリビングからは、東京湾が一望できる。
晶子は、子供のころから、この窓の外に広がる、海の風景が好きだった。ガミラスの遊星爆弾から逃れて、地下都市に避難していた数年を除き、晶子の生活には、いつも、この海の風景があった。

しかし、今、晶子が見ているのは、空・・・。
そして、想うのは、その向こうに広がっているであろう、宇宙のこと。
あの人のことだった。

「晶子。・・・・・・晶子!」
晶子は、ハッとして振り返った。
「お母様。」
「何度呼んでも返事もしないんだから。」
母親は、大げさにため息をついてみせた。
「ごめんなさい。ちょっと、ぼんやりしてて。」
晶子は、目を伏せた。

まさか、あの人のことが気になって・・・なんて、本当のことを打ち明けるわけにはいかなかった.。母は、理解のある人だが、いくらなんでも、自分の初恋を打ち明ける気にはなれなかった。
しかも、その相手が、地球防衛軍の人だなんて。いつ、地球に帰ってくるかもわからないんです、なんて。
おまけに、晶子の父親は、軍のことをあまり快く思ってはいない。祖父に反発して、文学の道を志したと聞いている。その祖父は、地球防衛軍の長官にまで、上り詰めたというのに。晶子から見ると、父と祖父は、まったく交わらない、別々の道を歩んでいるように見えた。

「近ごろ、あなた変よ。なんだか、ぼんやりしてる時間が増えたみたい。食欲もないみたいだし、どこか体の具合でも悪いんじゃないの?」
母親は、心配そうに、晶子の顔を覗き込んだ。
「いいえ。大丈夫よ。最近、あんまり暑いものだから、ちょっと、寝苦しくて。」
「そう・・・。本当に、近頃、おかしな気候ですものね。」

11月だというのに、照りつける太陽の陽射しは、まるで真夏のようだった。

─地球規模での異常気象

マスコミや研究者たちが、そろそろ騒ぎ始めていた。
晶子は、その理由を知っている。そのために、ヤマトが極秘のうちに発進したことも知っている。しかし、そのことは決して口に出してはならない。それが、祖父との約束だった。

「それより。晶子。今日の予定はどうなってるの?」
「今日の予定?」
「ええ。さっきおじい様からお電話があって、よかったら久しぶりに晶子と食事でもって。」
「まあ!」
晶子の表情が一瞬でパッと明るくなった。
「今日は、ゼミもお休みだから、おじい様のご都合に合わせるわ。」
「そう。じゃあ、そのように、お伝えしましょうね。」

そして、母親は、意味ありげに微笑んだ。
「本当におじい様の事が好きなのね・・・。まったく、現金な子なんだから。」

─おじい様にきいてみよう。ヤマトのこと・・・。

晶子は、浮き立つ心を抑えられなかった。

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2009.10/20(Tue)

青春の影 ④

土門が訳のわからないことを言っている。
「潜望鏡を見たんです!」

─はあ?潜望鏡?
太田は、思わず振り返った。

案の定、土門のやつ、相原に怒鳴られている。確かに、潜望鏡の下はどうなっているというんだ。相原の言う通り、ここは宇宙空間なんだ。

「異次元空間にに潜んでいるのでは?」

─はあ?異次元空間?土門のやつ、また、相原に怒鳴られるぞ。

しかし、この土門の突拍子もない話に、真田は何かひらめいたようだった。
「ワープしてみよう。何か、反応があるかも知れない。」
そして、こんなことまで付け加えた。
「異次元に潜む敵を探知するには、亜空間ソナーを使うのが一番だ。」

─亜空間ソナー?
太田は、こんなことを、こともなげに言ってのける真田に、今更ながら、驚いた。

しかし、太田は、もう振り返らなかった。
ワープするのなら、ワープアウト地点の計算に入らなければならない。しかも、事態は急を要していた。予想通り、島から、ワープ計算に入るよう指示が飛ぶ。
それに、異次元だ、亜空間だ、なんていわれても、自分には何の事だかさっぱりわからない。
とにかく、今は、自分のやるべきことをこなすことに集中するべきだ。

土門は、そのまま第一艦橋に残るよう、言い渡された。
太田は、興奮で上気しているであろう土門の顔を想像した。

─若いな・・・。
太田は、新人の熱い雰囲気を背中に感じながら、黙々と職務をこなした。
─土門にとっては、古代の隣に座ることは憧れなんだろうな・・・。

太田は、一瞬、作業の手を止めた。

─土門。それが、どんな意味をもつのか、分かってるのか・・・?古代の、後継者になる覚悟がお前にあるのか?

太田の脳裏に、不意に、苦い記憶が蘇る。戦いの記憶・・・自分たちは、戦い続けている。青春と呼べる年月のほとんどを費やして・・・。

─そんな自覚、あるわけないか。俺たちだって、訳もわからないうちに、階級だけが上がったんだっけ。


「ワープ30秒前。」
古代の、張りのある声が、全艦に響き渡った。

fin


14:24  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/19(Mon)

青春の影 ③

ヤマトは、激しい攻撃にさらされていた。
依然として、敵の姿はどこにもない・・・。
こういう状況になってみて改めて、太田はレーダー手としての責任の重さを痛感した。
しかし、いくら眼を凝らして見ても、レーダーが反応しないものは、どうしようもなかった。

─くそっ!

太田は、拳で操作盤を叩いた。

「太田。ミサイルの出現点を逆探知できないのか?」
古代の問いに答えたのは、真田だった。
「出現パターンが不規則だ。これじゃ、出どころを突き止めるのは難しいな。瞬間物質移送機を使って送り込んできたのかとも思ったが、そうでもない。何か、別の方法できているに違いないんだが・・・。」

「とにかく、このままじゃ、艦がもたないぞ。」
島が、悲鳴にも似た声をあげた。

ヤマトの状況は、悲惨だった。今まで持ちこたえているのが、不思議なくらいだ。
各ブロックから、被弾と損傷の報告が繰り返される。

「相原。何でもいいから、何らかの通信を傍受できないか。」
「今のところ、この空域での通信はありません!」

相原の返答に、古代は、立ち尽くした。
「どうなってるんだ・・・。」

土門が飛び込んできたのは、その時だった。




11:45  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/16(Fri)

青春の影 ②

古代と島が何か話しこんでいる。次の惑星探査の件らしい。
これまでの調査結果は、全滅だ。
この広い宇宙のどこかにある地球型の惑星を探すなんて、しかも、知的生命体の存在していない星なんて、考えてみれば、気の遠くなるような話だ。地球での事前調査で名前の挙がっていた恒星系の、半分はすでに調査し終えたが、未だ、成果を上げられずにいた。

─古代も辛いところだな・・・。

太田は、再び、何の変化も見せないレーダーに目を向けた。

この航海は、ある意味、イスカンダルへの航海よりもキツい。何がキツいって、何よりまず、俺たちがもはや新人ではない事だ。
それなりの立場、それなりの責任・・・。
初めてヤマトに乗り組んだ時から、俺たちは各部門の責任者だった事に変わりはないが、そんなこと、今から思えば、何の自覚もなかったんだから。ただ、毎日必死に、やみくもに戦ってただけだ。

その違いが、あの古代の表情に如実に表れている。

艦長の風格と言えば、恰好がつくかもしれないが、その一言で片づけてしまうには、古代の背負っているものは、あまりにも大きい。
島だって、南部や相原だって、そうだ。

─もしかしたら、俺もそうなのかもしれないな。
俺たちは、いつの間にか、目に見えない重圧と戦っているのかも知れない・・・。

─あーあ。まったく嫌になる。頼むから、そろそろ、ヒットしてくれよ。

太田が、探査予定地までの航路を再計算し始めた、ちょうどその時・・・。


ズズーーン!

太田は、激しい衝撃に襲われて、床に投げ出された。
─敵襲だ。攻撃を受けてる!
慌てて立ち上がって周りを見回すと、相原も、南部も、同じように床に投げ出されていた。

「太田!ちゃんと見てたのか!」
「レーダーには何の反応もないんだ!」
相原の怒声に、慌てて言い返した。
─レーダーの故障か!?
太田がそう思った瞬間、真田が素早く、レーダーの点検に入る。

その間にも、攻撃は止むことなく、次々とミサイルが着弾する。
戦闘態勢の非常警報が鳴り響く艦内は、パニックに陥っていた。
南部が、コンソールに向かって何か叫んでいる。

「太田!本当に何も映らないのか!?こんな近くから攻撃を受けているんだぞ!」
古代の言葉は、第一艦橋の全員の叫びだ。
「何も反応ありません!」
「レーダーの故障じゃないのか!?」
島も、必死に艦の態勢を立て直しながら、太田の方を振り返った。
「レーダーに異常はないんだ。」
真田も、首をかしげるばかりだった。

レーダーが効かなければ、話にならない。
ヤマトは、見えない敵の攻撃にさらされることになった・・・。
10:12  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/15(Thu)

青春の影 ①

─近ごろ、おかしな事ばかりだ。

太田は、変化のないレーダーを眺めながら、考えていた。
相原は、定時交信の時間になるとソワソワし始めるし、南部のヤツはこの前ぶっ倒れて以来、相変わらず顔色が冴えないし。

─まったく、調子狂うよなあ。
太田は、頭の後ろで腕を組んで、席にもたれ掛かった。

計器の発する電子音と、遠くから響くエンジンの低い音が、一定のリズムで絶えず繰り返されていた。
おかしいと言えば、あれ以来、ガルマン帝国の攻撃が止んだのも、おかしな話だ。
あれ程の大艦隊を有する帝国が、ダゴン一人いなくなったからといって、どうにかなるとも思えない。

─この静けさ・・・。なんだか、気味が悪いな・・・。


「浮かない顔だな。何か気になることでもあるのか?」

太田は、突然、真田に声をかけられて飛び上がった。

「いえ!なんでもありません!」
「そうか?それならいいんだが。」

真田もそれ以上は追及しなかった。再び、何事もなかったかのように、自分の前のモニターを見ながら、艦内の各機関のチェックに余念がない。そうしている間にも、絶え間なく、工作班からの報告が上がってきているようだった。

太田は、そんな真田を横目で見ながら、苦笑した。
─だいたい、何でも自分でやらないと気が済まないんだからな。そんなんだから、寝る暇もないほど忙しいんだよ。

実際、真田は忙しい。
艦の補修から、新型機器の開発まで、ありとあらゆる作業を一手に引き受けていた。

─マッドサイエンティストなんて言葉があるけど、科学者なんて、みんな何処かがマッドなんだよ。

太田は、もう一度、誰にも悟られないように、苦笑した。

太田は、さりげなく、後ろを振り返って見た。
相原が、南部に冷やかされている。

─そうそう、南部。その調子で、煽っておけよ。相原のことだ、どうせ地球に帰ったら、大騒ぎするに決まってるんだから。

地球に帰ったら・・・か。

太田は、こっそり、小さなため息をついた。


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2009.10/13(Tue)

異変 ⑫

「随分、良さそうだな。」
古代は、ベッドの傍の椅子に腰をおろした。
「この部屋・・・?良い匂いだな。」

部屋の隅に置かれた加湿器から立ち上る蒸気が、やわらかな香りを部屋中に運んでくれる。

─南部さんが嫌じゃなければ、香りつきにしてあげましょうか?

古代が来る少し前、ユキが、加湿器にアロマオイルを差していったのだ。
無機質な白い部屋に漂う甘い香りは、少し場違いな印象だった。


─カモミールには、鎮痛・鎮静作用があるのよ。
古代は、さっき立ち寄った医務室で、ユキが言っていたのを思い出した。
─南部さん、まだ完全じゃないみたいよ。私には、もう良くなったって言ってるけど。

─まったく、仕方のないやつだな・・・。
古代はユキの報告を思い出して、一人、心の中で苦笑した。

       ◆     ◆     ◆


「砲術班はどうなってる?」       
南部の一番気になっていることだった。
「誰も泣きついてこないところを見ると、俺なんかもう用無しってとこかな?」

南部の言葉を聞いて、古代は、安心した。こんな、軽口が叩けるくらいなら、事態は最悪には至っていないようだ。
古代は、砲術長の代理も立てずにいる現状を、簡単に説明した。

「それなら、なおさら、すぐにでも退院させてくれよ。」
南部はベッドから身を乗り出した。
「慌てなくても、じきに召集をかけるさ。」
ジッと見つめる南部に、古代は静かに告げた。

「その時は、たとえどんなに体調が悪くても、砲術長として、作戦の指揮を執ってもらう。」

南部は、古代の有無を言わせない口調に、一瞬戸惑ったが、すぐにうなずいた。
─大丈夫。出来るさ。これまでも、なんとか折り合いをつけてきたんだから・・・。
「任せとけ。」

古代は、南部の、その一瞬の戸惑いを見逃さなかった。
─やっぱり。まだ、体調が戻ってないんだな。

一瞬の沈黙・・・
均衡を破ったのは、南部だった。
「何か、話があってきたんだろう?」
「ああ。まあね。」
「何だよ。はっきり言えよ。」
すると古代は少し俯いて、呟くように話し始めた。
「実は、俺、南部に謝らないといけない事があってさ。」
「俺に、謝る?」
「ああ。」

古代は、一息ついて、気持ちを振りきるように続けた。
「俺たちは、幾つもの星を滅ぼしてきた。大勢の仲間を失って、ボロボロに傷ついてそうやって手にしたものって何だろうな。」
南部は、ただ、黙って聞いている。
「エゴといってしまえば、その通りだよ。」
南部は、驚いて、古代を見た。古代は、相変わらず、視線を落として話し続けた。
「お前が、苦しんでいることは随分前から知っていた。佐渡先生から、南部が倒れた原因は、過労とストレスだって聞いて、すぐに思い当たった。戦い続けること、ヤマトに乗り続けること自体が南部のストレスなんだろうって。」
南部はもう、言葉もなかった。

「お前は砲術も射撃の腕も一流だよ。だが、それが、余計にお前を苦しめていることも、わかってたさ。」

古代は、顔をあげて、まっすぐに南部を見据えた。
「わかっていて、それでも召集した。ヤマトの砲術長は南部以外には考えられなかったから。」

二人の視線がぶつかった。
先にそらしたのは、古代の方だった。

「古代。もういいよ。」
南部は自分でも驚くほど穏やかな声で話しかけていた。
「俺だって、わかってるんだ。やるべきことは、わかってる・・・。」
目の前でうなだれる古代は、まるで、さっきまでの自分だった。

「わかってても、時々嫌になるんだ。俺は、何してるんだろうって考えたりさ。」
南部は、笑った。
「でも、もういいよ。古代のそんな顔見てたら、どうでもよくなったよ。」

部屋には、相変わらず、カモミールの甘い香りが漂っている。

「俺たちの進む道は、修羅の道だ・・・。」
古代の声が、いつもよりも湿っている。
「自分が、選んだ道さ。」
南部は、納得するしかないと思う。納得できなくても、結論は、同じだ。
軽い頭痛と目眩がする・・・。
─こいつとも、気長に付き合うか・・・。

「この次は、ぶっ倒れる前に一言言ってくれよ。部下の愚痴ぐらい聞いてやるからさ。」
古代は、そう言い残して病室を後にした。

翌日、南部は、職務に復帰した。




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2009.10/09(Fri)

異変 ⑪

南部は、一人、静寂の中にいた。
ベッドに身体を預けて目を閉じると、どこか遠くの方から、腹の底に艦の唸りが響いてくる。艦の上部に突き出た第一艦橋に比べて、医務室が艦の中心部に近い証拠だ。

─俺は、どうしたいんだろう・・・。

もう、自分でもよくわからない。
地球は救いたいが、戦いたくはない・・・そんな都合のよい話は現実にはあり得ないのだから。
この航海が、単に、第二の地球探しで終われない事は、もはや明白だった。

それに、南部は、新人ではない。
年こそ若いが、その実績から、地球防衛軍内部でも中核を担うべき立場にあった。

─仕方ないな・・・。

南部は、半ば諦めていた。
何も今に始まったことではないのだ。
自分のやりたいことと、やるべきこととは、いつもズレている。そのギャップを埋めようとするより、最初から諦めてしまった方が楽だということを、幼いころからの経験で知っていた。
現実を生きるということは、そういうことなのだ・・・。

宇宙戦士訓練学校に入ったのは、自分の意志だった。それこそが、南部重工という父親の呪縛から逃れる方法だと思っていたのに、それが、後々、自分を苦しめる十字架になろうとは。
決意と希望を持って家を出た、十五の春に、どうして予測できただろうか。

─仕方ない・・・。

これは、南部にとって、魔法の言葉だ。この一言は、ざわつく感情を抑え込む、万能薬だった。

─みんなに迷惑かけたな。
南部はゆっくり息を吐いた。
─おかしいと思ってるんだろうなあ・・・。

倒れてから三日、ユキと古代以外に南部を見舞う者はなかった。
相原も太田も冷やかしに来ない。南部自身よりも、周囲の方がナーバスになっているのだろうということは、想像に難くなかった。


その時、不意に、扉の開く気配がして、南部は顔をあげた。

「ノックぐらいしろよ。」

古代が、いつもの照れ笑いで、そこに立っていた。
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2009.10/07(Wed)

異変 ⑩

「エゴか・・・。」
古代は相原の話を聞き終わると、ぽつりと呟いた。
「そうだな。俺たちのしていることは、エゴ以外のなにものでもないのかもしれないな。」
そして、自嘲気味の笑みを浮かべた。

相原は、そんな古代を見て、気がついた。

─この顔・・・。あの時の、南部と同じだ・・・。

「今回の事ってさ、原因は何かひとつの事じゃないと思うんだ。」
相原の言葉を、古代は黙って聞いている。
「うまく言えないけど、なんていうか・・・。少しずつ溜まってきた、膿みたいなものだと思うんだ。」
「膿か・・・。」

おそらく、相原の言うとりだろう。

時間が静かに流れていく。
戦闘さえなければ、ここは、静寂と闇の支配する空間だ。一向に変わらない窓の外の風景が、自分たちの置かれた空間の大きさを物語っていた。

「今回の任務に就く前、暗黒星団帝国との戦いが終わって、俺たちが通常の任務に戻っていた頃、南部と二人で飲みに行ったことがあってな。」

古代は話しながら、視線を手元に落とした。

「南部が言うんだ。『俺たちは何で戦い続けてるんだろう』って。自分は何不自由のない暮らしに妙な罪悪感を抱いて訓練学校に入ったが、そうして得たものは、更なる罪悪感だった、ってね。」
「罪悪感?」
「ああ。人殺しの道具を売ったお金で食べさせてもらってると思っていたら、気がついたら、自分が人殺しになってたって。」
「そんなっ!」

─違う。

しかし、その一言が、どうしてだか口に出して言えない。
相原は、どうしようもなく哀しかった。

「揚羽の乗艦が決まった時も、複雑そうだった。揚羽の会社も南部のところと同業だからね。自分と重ね合わせてたんじゃないかな。『俺は、南部重工の広告塔だぞ!』なんて、冗談めかして言ってたけど。」

「馬鹿だなあ。南部のやつ。」

ため息混じりの相原に対して、古代は不思議なくらい穏やかに微笑んだ。

「俺も南部と同じだよ。人殺しのエゴイストってところだな。」
そして、古代はすっと立ち上がった。
「南部の所に行ってくる。先に戻っててくれないか。」
「了解。」

相原は、冷めきったコーヒーを一気に飲み干した。


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2009.10/05(Mon)

異変 ⑨

相原は、サーバーから立ち上るコーヒーの香りを思い切り吸い込んだ。
─いい豆だな・・・。
カフェインには常習性があるらしい。相原は、典型的なカフェイン中毒だった。

相原は、コーヒーを淹れながら、何気なく古代の方を見た。
その横顔は、既に、艦長のものだった。
訓練学校時代の迷い荒れていた顔とも、沖田艦長に叱咤され必死にガミラスと戦っていた頃の顔とも違う。古代こそが、この艦の責任者なんだと、改めて思う。

二十歳やそこいらで、艦を任された友は、自分の手の届かない処へ行ってしまったような錯覚に陥る。
それと同時に、古代の顔からは、若者らしい快活さが消え、必要以上に艦長の枠に自分を閉じ込めてしまっているようにも思えた。

─微かな嫉妬と憐み・・・。

相原の心が、かさかさと音をたてた。


「ごめん、相原。待たせたな。」

気がつくと、古代は立ち上がって、少し照れくさそうに微笑んでいた。
「いいよ。艦長ともなると、決裁も半端な量じゃないんだな。」
「ああ。俺の一番苦手な仕事だよ。」
古代は、大げさに肩をすくめてみせた。

相原から、紅茶を受け取ると、古代はベッドに腰を掛け、相原に傍の椅子をすすめた。
「普段は、こっちの方が落ち着くんだ。艦長執務室なんて、柄じゃないだろう?」

相原は、今、目の前にいるシャイで物静かな男こそ、本来の古代進なんだと思う。こんな時代に生まれなければ、軍人になんかならなかっただろう。
それは、古代に限ったことではない。俺たちはみんな同じだ。
しかし、望むと望まざるとにかかわらず、俺たちはこの道を歩き始めてしまった・・・。

両手でカップを包んで、背中を丸めるようにして紅茶に口をつける古代の姿が、相原は哀しかった。


「南部のことなんだが・・・。」
古代は、カップを傍のテーブルに置くと、本題に入った。
「近頃、何か変わったことはなかったか?」
「ああ、そうだな・・・。」

相原の脳裏に、酔えない酒をあおって泣いた、あの時の南部の姿がよみがえる。

─言ってしまおうか・・・。

相原は、一瞬迷って目を伏せた。
あの時のことは、誰にも話さずにいた。

「やっぱり、何かあったんだな。」
古代はため息をついた。
「俺にも言えないようなことなのか。」
まっすぐに飛び込んでくる古代の視線を避けるように、相原は何も言えず俯いてしまった。
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2009.10/05(Mon)

異変 ⑧

南部は、ユキが行ってしまうと、病室の扉が閉まるのを確認してから、深く息を吐いた。

痛みとは目に見えない凶器だ。
それは、襲われた本人にしかわからない。

本当は、まだ、頭痛も目眩も完全に治まったわけではなかった。

─過労か・・・。
南部は微かに痛むこめかみを押さえた。
─もしかして、ユキさんにバレたかな・・・?

南部は再び、目を閉じた。
点滴の外された左腕には、内出血の痕が青く浮かんでいた。

            ◆        ◆        ◆

相原は、艦長室の窓から、漆黒の宇宙空間を眺めていた。
そこここに、大小さまざまな光点が瞬いている。

相原は、ふと、以前に南部が後方展望室から宇宙空間を見つめていたのを思い出した。
─古代も、ここから南部と同じ景色を見ているのか・・・。

相原の背後では、古代がデスク上のモニター画面を確認しながら、決裁の電子印を忙しく捺していた。
「相原、悪いな。誘っておいて待たせてさ。」
「いいよ。それ、急ぐんだろう?」
「ああ。すぐに済ませるからさ。適当に、コーヒーでも飲んでてくれよ。」
「了解。」

相原は、脇目もふらず書類に目を通している古代の横をすり抜けて、奥の部屋に入った。
艦長室は、手前の執務室と奥のプライベート用の二室が繋がった造りになっている。

「なあ、古代。」
「何だ?」
「お前は紅茶だろう?」
「ああ。淹れてくれると嬉しい。」
「了解。」

相原は短く答えて、サーバーのスイッチを入れた。

12:56  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/01(Thu)

異変 ⑦

その頃、ユキは医務室にいた。
南部のことが落ち着くまでは、調理場の方幕の内と土門に、第一艦橋の方は太田に、それぞれ任せ、出来る限り医務室に詰めるようにしていた。
生活班長としての彼女の仕事は多岐にわたる。特に、女子乗組員が退艦してからは、多忙を極めていたが、ユキ自身、南部のことが気がかりだったし、またそうすることが艦長たる古代の希望でもあった。

南部の状態は落ち着いている。本来なら、もう職務に戻っても良いはずだった。
しかし、どういうわけか、古代が南部の退院をしばらく引き延ばしてほしい、というのだ。何か、考えがあるのだろうが、ユキにも、真意を話してはくれなかった。


─ピピーッ、ピピーッ。

医務室に、電子音が鳴り響いた。
南部のベッドに取り付けられているセンサーが反応したのだった。

─南部さん、起きたのね。

ユキは、数えかけた薬品の小瓶を棚に戻すと、南部の病室に向かった。

ユキがノックをして入ると、南部はベッドを起こして点滴のしずくを眺めていた。

「南部さん。気分はどう?」
「最高ですよ。」
ユキの問いかけに、南部はニヤリと笑った。
ユキもつられて頬が緩んでしまう。
「顔色も良いようだし、もう大丈夫ね。」
ユキは、残り少なくなった点滴のバッグを目で確認すると、手際よく、検査キットを広げていく。

「また、採血ですか?」
あまりにも不満げな南部の声に、ユキは吹き出してしまった。
「まあ!南部さん、まさか注射が嫌いなの?」
「こんなもん、好きな奴の方が、少ないでしょ。」

実際、南部は注射が嫌いだった。

「それに、この点滴も何とかして下さいよ。もう、いいでしょう?」
「そうね。それだけ言える元気が戻ったんですもの。そろそろ、いいかもね。」
ユキは、手を止めることなく、にこやかに応じた。

あっという間に、ユキは仕事を済ませて検査キットを片づけると、枕元のタオルやカバーを交換した。
「さあ。これで、気持ちよくなったでしょう?」
ユキは汚れものを小脇に抱えて、妙に満足げだ。
「ユキさんに看病してもらってるところ、古代が見たら、怒るかな。」
「ふふっ。さあ、どうかしら。」
ユキはふわりと髪をゆすると、優しく笑った。

「もう、退院していいんでしょう?」
南部は眼鏡をかけると、髪の毛をかきあげた。
「もう、頭痛も目眩も止まったし。これ以上寝てたら、体がなまっちゃいますよ。」
少しやつれてはいるが、こうして話している限り、いつもの南部だ。
南部の問いに、ユキは静かに答えた。
「それは、この検査の結果が出てからね

─嘘だ。   

南部の検査結果はとっくに出ている。どこにも異常はなかったのだ。
ただ、過労とストレス─おそらく古代は、このストレスの元を探りたいのだろう・・・。しかし、今、それを南部に伝えるべきではない。

「どこか、悪いんですか?俺?」
それに対して、ユキはなるべく自然に答えた。
「いいえ。多分、過労だと思うわよ。最近、休む間もなかったんでしょう?」

そして、こう付け加えた。          
「一応、念のためよ。」

ユキは、にっこりとほほ笑んで、いぶかしがる南部の病室を後にした。







16:07  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/29(Tue)

異変 ⑥

南部が倒れてから、3日が過ぎようとしていた。
次第に、艦内に動揺が広がっているようだった。

古代と相原は、食堂からの帰りに、通路で溜まって話し込む、砲術班の新人のグループを見かけた。

「どうした?」
相原はさりげなく声をかける。
「あっ、いえ。何でもありません。」
彼等は直立不動で、敬礼した。
「何でもないんなら、持ち場に戻れよ。」
「はいっ。」

相原の穏やかな口調とは対照的に、新人たちは蜘蛛の子を散らすように走って行った。

相原は肩をすくめた。
「古代。」
相原も、二人きりの時は呼び捨てだ。
「南部の復帰の見通しは?」
「まだ、何とも・・・。」
古代のあいまいな返事に、相原は表情を曇らせた。
「まだ、そんなに悪いのか?」
「いや、随分と良くなってるよ。」

しかし、そういう古代の声は、沈んでいた。

幸い、今のところ、ガルマン帝国の艦隊には遭遇せずに済んでいるが、この穏やかな日々がいつまでも続く筈もなかった。銀河系の中心へ向かう航海は、戦いの中心へ向かうことでもあった。

しかも、結局、砲術長の代理は立てていなかった。当面は古代が、また、一旦ことが起これば坂巻あたりが砲術管制を仕切ることになるのだろうが、古代は、艦長として、その点もはっきりさせてはいなかった。

「良くなっているんなら、何で復帰の見通しが立たないんだ?」
「ちょっと、気になることがあってな・・・。」
「気になることって?」

古代は一瞬立ち止まった。
そして、少し困ったような顔で相原を見上げた。
「相原。少し、時間あるか?」

相原は、黙って、古代の後についていった。



16:26  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/29(Tue)

異変 ⑤

すぐに、箝口令が敷かれた。

単に、砲術長が過労で倒れたというぐらいのことなら、それがすぐにクルーの士気にかかわることも無いだろうと思いながらも、古代は心に何か引っかかりを感じて、この件は、公にしない方が良いだろうと判断したのだった。

しかし、これは、実際はあまり有効ではなかった。
狭い、ヤマト艦内でのこと、アッという間に噂は駆けめぐる。特に、普段から、まめに班員とコンタクトを取っている南部の不在は、すぐに知れ渡ってしまった。
                

15:51  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/23(Wed)

異変 ④

古代の足取りは重かった。
医務室から第一艦橋まで、こんなに遠く感じたのは初めてだ。古代は、改めて、自分がショックを受けているんだと感じた。

─過労とストレス。

今回の航海で、南部の負担が増えていることはわかっていた。艦長になった自分の代わりに、常に班員の状態を把握し、気を配ってくれていた。ガルマン帝国と交戦状態に陥ってからは、休む間もなかっただろう。

とにかく、南部には休養が必要だ。
しかし、南部の穴を埋められる人材はいない。古代にしても、艦長と戦闘班長を兼務した上、砲術長の職務まで引き受けるのは、無理だった。


第一艦橋では、皆、古代の帰りを待っていた。
「艦長!」
「古代!」
皆が、立ち上がって古代の傍に駆け寄ってくるのを無言で制し、た。

「南部なら大丈夫だ。頭痛と目眩がひどいらしいが、特に悪い病気ではないそうだ。今は、薬が効いて眠っているが、このまま、しばらく休養させれば落ち着くだろう。」

古代の言葉に、一応、ホッとした空気が広がる。

「しかし、艦長。何でもないのに、南部ほどの男が、気を失って倒れるとは思えんが・・・。」
真田だけではない。ここにいる皆、まだ、半信半疑だった。

「うん・・・。それが・・・。」


「過労とストレス!?」
大きな声を出したのは、島だった。
「南部がか?」
にわかには信じられない。
「そりゃあ、南部の職務は元々ハードだし、特に今回は古代が艦長になった分、戦闘班を実質取り仕切っていたから、それなりにプレッシャーはあっただろうが・・・。」

島の言いたいことはわかる。
─今回に限ってなぜ・・・?

みんなの知る限り、南部は心身ともにタフな部類に入る人間だ。これまで、何度も視線をくぐり抜けてきたはずだった。

17:30  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/21(Mon)

異変 ③

南部は、医務室の奥の部屋で眠っていた。
吊り下げられた点滴のバッグからポツポツと落ちる液体が、音も無く、南部の体に浸み込んでいく。無機質な室内には、取り付けられた機器の電子音だけが響いていた。

─南部・・・。

古代は静かにベッドに近づいた。そして、起こさないように気をつけて、その青ざめた顔を覗き込んだ。

─やつれたな・・・。

古代は小さくため息をついた。眼鏡を外して横たわる南部の顔は、生気を失い、まるで別人のようだった。
「古代くん・・・。」
「ユキ。どういうことなんだ?」
「ここでは、話しにくいわね。出ましょう。佐渡先生も、お待ちよ。」

ユキに促されて扉に向かいながら、古代はもう一度、ベッドの上の南部を振り返って見た。南部は相変わらず、静かな寝息をたてて眠っている。
─もしかしたら、最近はこうしてゆっくり眠ることも出来なかったのかな・・・。
古代は、先頃までのダゴン艦隊との激しい戦闘を思い出して、胸が痛んだ。

隣の診察室で、佐渡は待っていた。
「古代、来たな。」
「先生。一体、どういうことなんですか。」

佐渡は、古代を向かいの椅子に座らせると、穏やかに話し始めた。
「過労とストレス。多分、そんなところじゃろう。」
「過労とストレス?」
「そうじゃ。どうやら、頭痛と目まいがひどいらしい。ここに運ばれてきたときには、こちらの問いかけにも満足に答えられんような状態じゃったが、今は、鎮痛剤が効いて、落ち着いておる。」
佐渡はさらに続けた。
「検査の結果、特に重篤な疾患につながるような問題は見つからなかった。考えられるのは、過度のストレスぐらいなんじゃが、何か心当たりはないかのう?」

古代はにわかには信じられなかった。

11:33  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/20(Sun)

異変 ②

「艦長!」
相原の声で、古代は我に帰った。ハッとして振り返ると、みな一様に、信じられないという顔だ。

「とにかく、医務室に行ってくる。後は任せたぞ。」
それだけ言い残すと、古代は第一艦橋を飛び出して行った。

沈黙を破ったのは、島だった。
「南部のやつ、そんなに体調が悪かったのか?」

真田も、太田も首を捻るばかりだ。
その中で一人、相原だけは、さっきの南部の不自然な仕草を思い出していた。

「そういえば、さっき、南部が格納庫に下りる前、ちょっと様子が変だった・・・。」
「どういうことだ?」
「南部は、何でもないって言ってたけど、眼鏡に手をやりながら、こめかみを押さえてた。」
「本当か?」
「うん。顔色も良くなかったし・・・。多分、頭が痛かったんじゃないかな。それで、眼鏡を直すふりをして、こめかみを押さえたんだと思う。」
「お前、そういうことは早く言えよ!」
「だって、まさか倒れるほど深刻だなんて、思わなかったから・・・!」

相原と島のやり取りに、太田も口を開いた。
「そう言われてみれば、この間も、あれっ?て思うようなことがあったな。」

それは、二日前のことだった。
「あの日は、俺と南部が当直だったんだ。それなのに、南部のやつ、珍しく時間に遅れてきた。
それに、少し顔色が悪いような気がしたから、ちょっと気になって
『具合でも悪いのか?』って訊いたんだ。その時も南部は
『大丈夫。何でもないよ。』って」。
もしかしたら、少し前から、体調を崩してたのかも知れないぞ。」

「あの馬鹿!何で倒れるまで黙ってるんだ!」
島の苛立った様子に、みな、押し黙ってしまった。
「まあ。艦長が様子を見に行ったんだから、しばらく待とうじゃないか。」

真田の言葉を受けて、とりあえず、みんな、持ち場にかえるしかなかった」
03:41  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/19(Sat)

異変 ①

それは、突然始まった。
─頭痛と目眩。

ダゴン艦隊との戦いに勝利したヤマトは、次の惑星探査に向かって、銀河系の中心方向を目指していた。

─まただ・・・。

南部は、みんなに悟られないように、眼鏡を直す振りをして、そっと、こめかみを押さえた。

はじめは、目の奥の方に僅かに違和感を感じる程度だった。しかし、痛みは日増しに強くなって、気がつくと、鎮痛剤に頼らなければならない程になっていた。

「南部?どこか具合でも悪いのか?」
「何でもないよ。」
相原が隣の席から覗き込んでいる。不思議と相原は、こういう時に動物的な勘が働いて、人の不調を言い当てるのだ。

「加藤の所に行ってきます。」
南部は古代に一礼すると、第一艦橋を後にした。

南部は格納庫に下りて行った。次の作戦計画を練らなければならなかった。
─くそっ・・・。
頭を締め付けられるような痛みに、目の前の通路が歪んで見える。
─マズイな。
鎮痛剤も効かなくなってきているようだった。
─何なんだよ・・・!勘弁してくれよ・・・。

南部は、静かに崩れ落ちた。

第一艦橋では、今後の探査計画について、意見が交わされていた。
「全滅だな。」
真田の言葉に、みんな、ため息をつく。
「候補に挙がっていた恒星系は、ことごとく、駄目だったな。」
島も浮かない顔だ。
古代は、黙って、腕を組んだままだった。

古代、島、真田の三人は、艦橋中央に集まっていた。
「それに、ガルマン帝国・・・。どうも気になる。」
「どう気になるんだ、島。」
真田の問いかけに、島は言いにくそうに続けた。
「戦法、戦術、それに艦載機や空母。どこか、ガミラスに似ているような気がするんです。」

重苦しい空気が流れる中、相原のコンソールに着信を知らせる電子音が響いた。

─ピピーッ、ピピーッ。

「はい。第一艦橋、相原。」
「こちら、医務室の森です。」
ユキだった。

「艦長、いらっしゃいますね?」

「古代だ。」
「艦長。至急、医務室においで下さい。」
ユキの声が、心なしか上擦っている。
「どうしたんだ?」
「南部さんが、運びこまれたんです。」
「どういうことだ!?」
古代は、思わず、大きな声を出した。
「格納庫付近で、意識を失って倒れていたようなんですが・・・。」
「南部が!?」
古代は、突然のことに言葉を失って、立ち尽くした。

「とにかく、早く来て下さい。」

ユキは上ずった声でそれだけ言うと、通信を切った。




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