スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2017.03/01(Wed)

転機 ⑤

部屋を出てから格納庫に着くまで、南部は一言も口をきかなかった。
太田も、黙ってついて行くしかなかった。
─南部・・・。大丈夫かな・・・。
太田の心配をよそに、南部は淡々と歩いている。

しかし、太田は、格納庫の扉の前で南部が呟いた一言を聞いてしまった。
口の中でぼそっと、多分、太田に聞こえないように、それでも、つい言ってしまった一言・・・。
『さあ、いくぞ・・・。』

どうして、密かに気合いを入れる必要があるのか、太田にはわからない。
そして、元をただせば、どうして自分が連れてこられたのかもわからない。

太田は、南部の背中に、静かに充ちる気迫を感じた。

     ◆     ◆     ◆

格納庫では、ブラックタイガー隊員たちの、賑やかな出迎えを受けた。
ここでも、暇な者たちが、将棋をしたり、トランプに興じたりと、思い思いに時間をつぶしている。
皆、口々に、『南部さん!』とか『砲術長殿!』とか言いながら、手をあげたり会釈をしたりして南部に挨拶をした。
それに応える南部もまた、先ほどまでとはうって変わって、穏やかな笑みをたたえて、にこやかに応じている。
南部の管轄は砲術班だが、ブラックタイガー隊の中にも、すっかり溶け込んで、いい関係を築いている様子が伝わってきた。

─南部・・・。一体、何考えてんだ・・・?

太田は、南部の変わりように、微かな不安を覚えた。


「よう!砲術長!」              
 
仲間とコーヒーを飲みながら談笑していた男たちの一人が、振り返って手をあげた。
山本だった。
南部も、さっきとはうって変わって、にこやかに応じた。
「山本、暇そうだな。」
「なんとかしてくれないか。こんなに暇じゃ、体がなまっちまう。」
山本は、笑いながらコーヒーを飲んだ。
「ふふふ。それは、俺も同じさ。」
南部も、笑顔で肩をすくめた。
「で、出発はいつ頃になるんだ?」
「そんなこと、俺にわかるわけないだろう?それを決めるのは砲術班じゃないよ。それに、だいたい、嵐がおさまる予定なんて、誰にもわかりゃしないさ。」
南部は、太田の方をを振り返って、片目をつぶって見せた。

─・・・?
しかし、太田は、南部のウインクの意味がわからずに、ぽかんとしている。

山本も、チラッと太田の方を見て、そして、意味ありげな笑いを浮かべた。
「なるほどね。副航海長殿は航海の見通しがついたから、その説明に来てくれたってわけか?」

─えっ・・・!

太田は、思いがけない展開に言葉を失った。
「航海の見通しなんて・・・。それは、その・・・。」
山本は、相変わらず、ニヤニヤしている。
すがる思いで南部を見ると、南部もまた、笑顔で頷いているではないか・・・。
─南部ー!
太田は、やっと、南部の思惑を理解した。

─自分がここに居るのは、偶然なんかじゃない。
南部は最初から、こういう場面を想定して、太田を連れてきたのだ。
この、艦内の不穏な空気を、少しでも和らげるために。少しでも、乗組員の気持ちを安定させるために。
副航海長の一言が、どれほどの影響力を持つか・・・。
普段、意識したこともない自分の肩書が、これほど重たいとは・・・。

太田が一人慌てている間に、気配を察知した隊員たちが、太田の周りに集まり始めた。
みんなの期待が、太田にも伝わってくる。

太田は、南部の服を引っ張ると、小声で助けを求めた。
「南部!お前、事情は知ってるだろう!?説明なんてできないよ!」
しかし、南部は柔和な笑みを隊員たちに向けながら、太田の耳元にそっと囁いた。
「こうなったら、一発、はったりかませ!」

─はぁ!?

南部は、クスッと笑った。

「嘘でも何でもいいから、みんなを安心させてやってくれよ。確証もないのに、大見栄きった航海長の後始末だよ。」

─クソー!南部のやつ!

隊員に囲まれてもみくちゃにされる太田を一人残して、南部は加藤の居る格納庫最上段に消えた。


スポンサーサイト
19:34  |  宇宙戦艦ヤマトのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Tracback

この記事のトラックバックURL

→http://kiokunomukou.blog99.fc2.com/tb.php/72-52396a07
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。