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2016.11/13(Sun)

さよならをするために ⑤

ユキが出て行ってしまうと、とたんに交信室の空気は無機質なものに変わった。
聞きなれた電子音と、遠くから響くエンジン音が、南部の体を包み込む。

南部は、交信機の椅子に座ったまま、ピクリともしなかった。

─・・・。

そうして、どのくらいの時間が過ぎただろうか。
おそらく、それほど長い時間では無かったはずだ。1分か2分か、その程度の時間が、南部の周りだけ恐ろしくゆっくり流れていった。

─クソ・・・!

とうとう、南部は、目の前のキーを操作して、次第に像を結ぶモニターを、じっと凝視した。


「お、お坊ちゃま・・・!」
画面に現れたのは、お手伝いの女の子だった。歳は18、9くらいの彼女は、父親が南部家の運転手しをしていた関係で、子供のころからの顔見知りだった。
「ちょっと、お待ちください!」
彼女は、突然のことに慌てて、誰かを呼びに走って行ってしまった。

誰もいなくなった画面の向こうには、懐かしい、リビングの風景が映し出されていた。ソファもテーブルも、その向こうに見える飾り棚のカップの数まで、南部が家を出た時と何ひとつ変わっていない。こうして見ていると、リビングの隣の台所から流れてくる、コーヒーの香りまでしてくるよう不思議な気分だった。

モニターには映っていないが、その向こうでは、どうやら使用人たちが騒いでいるようだった。

─そりゃ、そうだよな。何年も音信不通の放蕩息子が、何の前触れもなく宇宙から交信してきたんだもんな・・・。

南部は、画面の向こうの雑音に、思わず苦笑した。


懐かしい我が家・・・。幼い日の温かい記憶・・・。
一瞬、懐かしさに目を閉じた南部が、次に見たのは、驚きに眼を見開いた母親の顔だった。

     ◆     ◆     ◆

「康雄・・・!」

南部の母親は、長身に長い黒髪の映える、美しい人だ。
しかし、どこか、線の細い、儚げな人だと、南部は思う。
久しぶりに見る母は、少し痩せて、やつれて見えた。

「久しぶり・・・。」

南部は、母親の視線を避けるように俯いた。
なんと言っていいか、次の言葉が出てこない。古代に言われたとおり、ただ別れのあいさつをしておこうと思っただけなのに、いざ、こんな母親のやつれた顔を目の前にすると、どんな言葉も出てこないのだ。

「あなた・・・。よく無事で・・・。」
母は、泣いていた。
「あなたがヤマトに乗ると聞いて、ひと目逢いたいと思って、あの日、街に行ったのだけど・・・。凄い人ごみで、どうしてもあなたの姿を見つけることが出来なかったのよ。」

あの日の、見送りの人ごみにもまれて、母は必死に自分を探していたのだと思うと、南部は、胸が痛んだ。
古代の言うとおり、一言『行ってきます』と言えば良かったのに・・・。

「少し、痩せたみたいだけど、大丈夫なの?ちゃんと食べてる?危ない目に遭ってるんじゃないの?」
俯いたまま何も言わない息子に、母は必死に語りかけてくる。
「大丈夫。心配しないで。」
南部は、やっとのことで、それだけ言った。

何も、母親をこんな風に泣かせるために、家を出たのではなかった。本当は、父親が憎いわけでもない。
ただ、違うだけなのだ・・・。

「母さん。もうすぐ太陽系を離れる。地球との交信もしばらくは難しくなるんだ。ガミラスとの戦闘も、激しくなってきて・・・、それで・・・。」

母親は、息子の言葉に息をのんで、両手で顔を覆った。

─ああ!クソ!俺、何言ってんだ・・・!

南部は、もどかしさに唇を噛んだ。
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