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2016.11/13(Sun)

秘密 ⑨

緩やかなブレーキの反動で、晶子は現実に引き戻された。
車は、住宅街の一角にある小さな雑貨屋の前で止まった。

「少し待っててくださいね。買うものは決めてあるの。10分で戻ります。」

運転手は、にっこりと頷いた。

─カランカラン

こじんまりとした店内には、他に客はいなかった。品数は決して多くないが、洗練された小物類がスッキリと並べられている。人形、時計、ティーセット・・・どれもアンティークの、そこそこ値の張るものばかりだった。

晶子は目的の棚まで進むと、革の表紙の手帳を手に取った。薄茶の表紙の隅には、小さな花の模様が型押しされていた。
そしてもうひとつ、窓際に掛けられた小さなベルを選んだ。扉に掛けて使うのだろうか、ベルから下げられた2本の細い革ひもの先には、小さな蜻蛉玉が幾つか付いていて、開け放たれた窓から風が吹き込むたびにコロコロと揺れて、軽やかなベルの音が響くのだった。

─あの人の風を感じられるかしら・・・。

晶子は、寂しそうに微笑んだ。

     ◆     ◆     ◆

晶子が、本部のロビーに着いたのは13時少し前。平九郎は、15分ほどで現れた。
「待たせてすまないね。」
軍の制服を着た祖父は、少し疲れて見えた。
「いえ。おじい様こそお忙しいんでしょう?」
「まあ、忙しいことは忙しいが、たまに孫と食事をする時間ぐらいはあるよ。」
二人は連れ立って正面玄関を出ると、チューブカーに乗り込んだ。

「店は任せてくれるだろうね?」
「ええ。もちろん。」
平九郎と会うのは、日本アルプスのドックから帰って以来でだった。晶子は、内心、ヤマトのことを聞きたくてしょうがないのだが、なかなか、タイミングが掴めなかった。

「晶子に会うのは、あれ以来だね。」
「おじい様ったら、いくら忙しいからって、1か月以上も家に帰っていらっしゃらないんですもの。」
晶子は、小さな子供がするように、プイっと口を尖らせた。
「まあ。そう怒らないでくれ。色々あってね・・・。」
平九郎は、真面目になると、少し声を落とした。
「情勢は深刻さを増しているんだ。今度正式に、地球移民本部を立ち上げることになってね。私が、その本部長を兼任することになったのだよ。」
その言葉の重さに、晶子も事態の深刻さを感じ取った。
「大変なお仕事ね。」

祖父の顔に浮かぶ、苦悶の色。いつからこんなに深いしわが刻まれていたのだろうか。
晶子は、祖父の置かれた難しい立場を思いやった。
同時に、ヤマトの航海もまた、困難を極めているのだろうと悟った。

「おじい様。私にも何かお手伝いさせて下さらない?一生懸命頑張りますから。」

平九郎は驚いて晶子を見た。
可愛い孫娘は、瞬きもせず、まっすぐに自分を見返してくる。
─とうとう来たか・・・。
平九郎は、あの日、晶子が長官室で、将来は自分も軍の仕事がしたいと言ったときから、いつかこんな日が来るのではないかと覚悟はしていた。しかし、その日がこんな形で、こんなに早く訪れようとは、予想もしていなかった。そして、おそらくその理由は・・・。

─相原くんか・・・。

心の中でひそやかに広がる複雑な感情を押し殺して、平九郎は穏やかに微笑んだ。
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