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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑰

―俺たち、馬鹿だよな…。

太田は、ユキの笑顔と島のぎこちない表情を見比べながら、欠伸をした。
既に、時間は深夜を回り、朝方が近くなっていた。
買ってきたビールを飲み尽くして、キッチンの宴会は終わりが近くなっている。

太田はキッチンの二人に笑顔を残して立ち上がると、窓辺の男に声をかけた。
「南部。なに見てるんだよ。」

呼ばれた南部は、ちょっと振り返って口元に笑みを浮かべている。
この男の無言の笑みは、本当は心から笑っているわけではない事を、太田はこれまでの付き合いの中で学習していた。
南部と並んで立つと、彼の背の高さを改めて感じた。
「どうかしたのか?」
太田は、背後の島とユキにチラリと視線を送りながら、南部に目配せした。
暗に、二人の事が気になってるんじゃないか、と言いたそうな太田の態度に南部は苦笑した。

確かに、この胸のわだかまりの原因はユキなのかもしれない。
おそらく、島の心のうちも、なかなか穏やかではないのだろう。
そんな事も知らず、ユキは結局のところ、古代の話ばかりしているのだから、笑えるじゃないか。
わかっていた事はいえ、人の心はなかなかに複雑だ。
自分は、一体何を期待していたのだろう・・・。
いや、何も期待してはいない。
それなのに、どういうわけか、胸の奥がジクジクと痛むのだ。

「いや、別に。」
そして、窓の外に浮かぶ月に目をやった。
「ただ、もうすぐ朝なんだなって思って。」

彼の言うとおり、月はすっかり西の空に傾き、その輝きもはかなげに白んでいる。
まだ空は暗いが、明らかに、真夜中の空の黒ではなくなっていた。

「今日は、もう帰って寝るだけか?」
と、南部は訊いた。
太田は、当然だろ、と言わんばかりに肩をすくめて笑って見せた。
「俺も。」
南部も眠たそうに笑った。


二人の背後では、殆ど眠りかけの姫の傍で、王子の親友が寝ずの番をしている、と言った体で、ユキの夜も終わりかけていた。
「おいおい。寝ちゃマズいだろ。」
太田のつぶやきも、結局姫の耳には届かなかったようだ。

まるで、魔法でもかかったように、ユキは静かに眠りに落ちた。

「さあ、これから、どうする?」
太田の一言を合図に、みんなの夜も終わりを告げた。

もう一時間もすればエアカーも走り始めるだろうが、この眠りこんだ姫をどうしたものか・・・。

すると、太田は嬉しそうにとんでもない事を提案した。

「このまま、置いて帰ろう。」
「はあ?」
島も南部も顔を見合わせて声を上げた。

「いいじゃないか。起こすものかわいそうだし、それにどうせ抱えちゃ帰れないんだから。」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
島は、及び腰だ。
「それに、ちょっと面白いじゃないか。何も知らない相原が起きたら、どんな顔をするか。」
そして、一人だけ何も知らず、幸せそうに眠りこんだバツだ、と言った。

その太田のニヤケた顔に、南部は思わず噴き出した。
「それ、面白いじゃん。」

「でも、ユキも仕事があるんじゃないのか?起こしてやらないと、可哀想だよ。」
まだ踏ん切りのつかない島に南部は答えた。
「大丈夫さ。今日は休暇を取ってるって言ってたから。」

これで決まった。

二人の悪童に引きずられる格好で、島もしぶしぶ承諾して、三人はそっとユキを相原の真新しいベッドに運ぶと、自分たちは、もうひとつ奥の洋間に隠れた。
もちろん、彼らの眠気もピークに達しているため、あまり長くは待てない。
そこで、太田が、ソファの相原を覚醒ギリギリのところまで起こしにかかって・・・。


その後、相原の予想通りの大騒ぎに大笑いしながら、三人は寝ぼけ眼のユキに別れを告げて部屋を出た。

もうすぐ、朝日は昇る。
美しい地球の朝に、大あくびの男たちはそれぞれの帰路についた。


fin


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