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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑮

―まったく…!

島は、面白くない。
久しぶりに再会した仲間たちと飲み明かそうと思っていたのに、この状態は一体何なんだ。

─クソっ。南部のヤツ。

南部とユキが行ってしまってから、残された3人は結局、相原の新築の宿舎に転がり込んでいた。
帰還後、母親と同居していた相原だったが、故郷北上の旅館を再開するめどが立って、母親が帰郷したのを機に、自分は防衛軍の宿舎で一人暮らしをする事にしたのだった。

まだ、新しい建物の臭いが充満するマンションの部屋は、こじんまりとしているが、男の一人暮らしには十分な空間だ。
キッチンとリビング、それに洋室がふた部屋続きである。
食器棚や、ソファ、テーブル、ベッドなど、ひと通りの生活必需品は備え付けられていた。


明らかに機嫌の悪い島を横目にチラリとみて、太田は笑っていた。
「まあ、そう怒るなよ。」
太田は、スルメを噛みながらビールを飲んでいる。
島も、泡の消えかかったビールを惰性であおっている。
二人は、まだ引っ越しの段ボールが山積みのキッチンで、テーブルを挟んで飲み続けていた。
不味い酒だった。

「何だよ、相原のヤツ。人が、せっかく久しぶりの再会を祝って、飲み明かそうと思って来てるのに。」
「まあ、こいつもお疲れなんだよ。実家の引っ越しと、自分のところの引っ越しと、両方だったんだから。」
太田は、島のイライラには知らん顔で、笑っている。
彼には、島が、単に相原の事だけで機嫌を損ねたのではない事もわかっていた。

─南部!この埋め合わせはしてもらうぞ。

太田は、一人、ニヤリと笑った。

そんな太田の後ろで、早々に酔いつぶれた相原は、リビングのソファに倒れ込んでいる。
島は、苦い顔で、新しいビールの缶を開けた。

すっかり夜は更けて、窓の外は静まり返っている。
ここは、防衛軍本部からも遠くない、市内中心部にありながら、街中の喧騒からは隔離されているかのような静けさだ。
都市計画のなせる業か、それとも、ここの完全な防音対策の効果かは定かではないが、とにかく、外の空間との遮断は、完全に成功しているようだった。

島は、この静かすぎる部屋に、違和感を感じた。
隣人との関わりはおろか、外の社会との繋がりさえもが薄れていくような気がした。

「静かな夜だな。」

島は窓の方に目を向けた。太田もつられて、振り返った。
開け放たれた高層階の窓越しに、傾きかけた月が見えた。
街の明かりが反射して白くふやけた夜空に、ぽっかりと浮かぶ月は、心許ない光を放っている。
島は、ソファーで寝息をたてる相原に視線を落とした。

「馬鹿だな・・・。あれほど帰りたかった地球に帰ってこれたのに、また宇宙に出るなんて。」
「それ、誰のこと?」
太田は、とぼけてスルメを噛んでいる。
「誰って・・・。」
黙り込んだ島に対して、太田は飄々と言葉を繋いだ。
「俺たち、みんなさあ、何で宇宙から離れられないんだろうな。」

そして、立ち上がって相原の傍までいくと、その辺りの荷物の中から、適当に上着を引っ張り出してきて、眠りこんだ彼の上に掛けてやった。
「地球に帰りたくて、宇宙遊泳までしたのにな。こいつも、来月から木星だったっけ?」
「ああ。確か、途中から、古代と合流して帰還する予定じゃなかったかな。」

相原も、任務のために、再び地球を離れる日が近づいているのだった。

「俺たち、馬鹿だな・・・。」

太田の乾いた呟きが部屋に響いた時、不意に、誰かの携帯の着信音が鳴り響いた。


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19:56  |  イスカンダル 帰還後のお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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