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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑭

二人は丘を下りて、もと来た道を戻って行った。市街地に続く一本道の先には、明るい街の灯りが見える。
黙って歩く南部の後を、ユキは言葉もなく歩いている。
彼女は、先程までとはうって変わって、不機嫌な表情の南部に困惑していた。

「ねえ…。南部さん?」

遠慮がちに声をかける彼女を、南部はチラリと振り替えって一瞥して、口元だけで微笑んだ。
無理に作った笑顔はすぐにわかる。
南部の横顔に浮かんでいたのは、いつもの穏やかな微笑みではなかった。

ユキは内心、困っていた。
今さら家に帰る気にもならないし、それに、そんなことをしたらかえって親に不審がられるではないか。
ちょっとした思い付きの嘘が、ユキの心を縛っていた。
それに、どうして南部が急に機嫌の悪そうな顔をするのかが、ユキにはわからない。

―疲れているのかしら…?

いや、そうではない、とすぐに打ち消した。南部の歩調は常に一定のリズムを刻んでいる。それも、来たときよりも、むしろ速いのだ。力強く歩き続ける彼の背中からは、疲れたような雰囲気は感じられなかった。
では何故…?
しかし、いくら考えても、思い当たることはない。

ユキは、まるで知らない人を見るように南部を見上げた。

「あの・・・。」

南部は、背後から聞こえる遠慮がちな囁きに、とうとう観念して足を止めると、静かに振り返った。

「なに…?」
「いえ、その…。」
南部は相変わらず、口元だけで無理に笑顔を作ろうとしている。

「あのね。もうエアカーも走ってないのよ。」
南部の真意はわからないが、ユキは仕方ないので、思いきって本当の事を打ち明けた。
「それに、今さら帰れないわよ。お友達のお家に泊めてもらうって言ってるのに、ママに嘘がバレちゃうじゃない。」

―ははっ。そうだよな。


南部はようやく、表情を緩めた。

「そうだね。」

意外にも、途方に暮れているのは、南部の方だった。

この心のざわつきをどうする事も出来ない。
本当は、どうしようもない鬱憤に窒息してしまいそうだ。
どうして、何もかも、自分の思い通りにはならないのだろうか。
ユキも、古代も、この街も。
そして、自分自身さえも、自分の思った通りには動けないでいる。


街の明かりは、もうすぐそこに近づいている。
周囲のざわめきが戻ってくるのと反比例するように、ユキの胸元で光っていた星の輝きは、光を失ってしまった。

─古代・・・。いま、何してる?

見上げた夜空は、街の明かりが反射して白くかすんでいる。

南部はズボンのポケットから携帯を取り出すと、音も立てずに操作した。
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19:55  |  イスカンダル 帰還後のお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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