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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑫

「本当に、帰らなくていいの?」

気がつけば、月が西に傾きかけている。右肩の欠けた月は、まるで覗き込むように二人の横顔を照らしていた。

「帰りたくても、もう、エアカーも走ってないわ。」
「明日、仕事じゃないの?」
「お休みいただいてるの。」

ユキは、南部を見上げて笑った。
彼女の意外な用意周到さに、南部も苦笑した。

白布にくるまれた銅像の台座の前で、二人は地べたに並んで腰をおろして、夜風にそよぐ木々のざわめきに身をまかせていた。

「南部さんこそ、良かったの?」
「俺の親は、慣れっこだよ。だいたい、家を飛び出したっきり、何年も帰らなかったような放蕩息子だからね。今さら、一晩帰らなかったくらい、どうってことないさ。」

南部は、少し投げやりに笑ってみせた。

本当は、ユキを送り届けたら、みんなと合流する前に家に電話を入れるつもりだった。しかし、行き掛かり上、電話をするタイミングを失ってしまったのだ。
無断で外泊することに、後ろめたさが無いわけではなかったが、ユキの前で、自宅に連絡するのは何となく気がひけた。
それを、見栄と言うのかもしれない。


しかし、ユキは、予想に反して、困ったような顔をした。

「あの、そうじゃなくって・・・。」
「・・・?」
「私が言ってるのは、島くん達の方よ。」

―ああ…。
そうだ。ユキを送り届けたら、後で合流すると言って別れたんだった。
─あいつら、怒ってるかな・・・。
南部は曖昧に笑うしかなかった。

「私ね、最近、ここに良く来るのよ。」
「へえ、そうなの?」
「私も、さっき、相原君が言ってた事、何となくわかるような気がするの。」

ユキはそう言って、空を仰いだ。

「この半年余りの間に、世界はすっかり変わってしまったわ。」
「そうだね。」
南部も、複雑な表情を見せた。
自分たちを取り巻く環境の激変に戸惑っているのは、南部も同じだ。

「でも、俺たちの望んだとおり、地球はギリギリのところで救われたんだ。」
「ええ、そうよ。スターシアさんが言ったように、私たちは、自分たちの力で明日の幸せを勝ち取ったの。」

でも・・・、とユキは口ごもった。

「今、地球は甦ろうとしている。それなのに私の心は、あの戦いの日々にとらわれ続けている・・・。」

南部は、俺も・・・、と言いかけて止めた。
この心の葛藤は、とても言葉には言い表せない。言葉にしてしまうと、とたんに安っぽくなってしまうような気がした。

「私には、戦いの記憶しかないの。嬉しい事も悲しい事も、全部その中にあるのよ。」
「俺たちは、みんなそうさ。」
「本当は、全部忘れてしまいたい。でも、忘れられないの。あの厳しい戦いの毎日を、私は忘れる事が出来ない。
気がつくと周りはどんどん新しく生まれ変わっている。まるで、自分だけが、取り残されていくようで辛いわ。」

「そうだね・・・。」

南部も気が付いていた。
どんなに、どんなに家族の温もりに包まれても、どんなに穏やかな日常に身を置いても、自分の心の奥のずっと深いところには、どうしても癒されないものがあることに。


「南部さんは、なぜ、防衛軍に残ったの?」

ユキは、南部を真っすぐに見つめている。

その時、彼女の長い髪が風に揺れて、首筋の細いチェーンが、月明かりに光ったような気がした。


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19:53  |  イスカンダル 帰還後のお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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