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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑪

英雄の丘から見下ろす街の灯りが、湾の形に弧を描いて白く輝いている。
ようやく着いた丘の上から見下ろす東京の街は、冷たい夜風にキラキラと揺れて美しかった。
復興途上にある街の周囲には、まだその何倍、何十倍もの面積の未開発地区を残している。しかし、視界の中央で輝く街の光は、その周囲に広がる暗闇の中に呑み込まれることなく、輝きを保っていた。

それはまさに、人類の希望の象徴だった。


ユキは少し上気した顔で、その光の集まりを見つめていた。
南部も、彼女と並んで立っている。

「東京の夜景なんて、今まで見ることも無かったわ。」
「そうだね。」

ユキの言うとおり、地下に閉じ込められていた生活の中では、東京に限らず、夜景を眺めるなんて事はありえなかった。地下都市にも朝と夜はあったが、貴重な燃料を節約するために、夜間の電力供給は、ごく限られたものだった。それよりも、昼間の明るさを確保するのが重要だったのだ。

暗い夜の向こう側から、ほのかに薫るのは、丘の上の公園を囲むように再生された森の木々の匂いだろうか。
それとも、海の上を渡ってくる、風の香りなのだろうか。

南部は、大きく深呼吸をした。
「何の匂いだろう?」
するとユキは、ちょっと考えてから答えた。
「若葉の香りじゃない?」

そして風は、ユキの長い髪を揺らした。
その、風に乱れた髪をさりげなく右手でたくしあげた時、彼女の白い胸元に、何か光るものが見えた。

「それ・・・。」

南部の視線にユキも気付いたようだった。

「ああ。これ・・・。」
そして、ブラウスの中から、小さな光の元を引っ張りだして見せた。
「かわいいでしょ。」

それは、銀色に光る小さなペンダントだった。
暗がりではっきりとは見えないが、星の形をしているように見えた。

ユキが何を言わなくても、それを見れば、そのペンダントがどういう類のものかは、すぐにわかった。

「それ、もしかして古代から?」

ユキは、それには何も答えず、ただ、にっこりと微笑んだ。

「あいつもバカだなあ。いくら、外周艦隊所属だからって、ユキさんを何ヵ月も放ったらかしにするような事するなんてさ。あいつが望めば、地上勤務だって可能なのに。」

それでも、ユキはただ微笑むだけだった。


南部は、その笑顔が息苦しくて、彼女から目をそらすと、建設中の丘の真ん中を振り返った。
イスカンダルへの航海で命を落とした乗組員の慰霊碑が作られているとは聞いていた。
ほとんど完成しているようだが、中央の銅像らしき大きな塊には、まだ白い布が巻き付けられていた。

南部は吸い寄せられるように、その台座に歩み寄った。
ユキも、つられるようについてくる。

若葉の香りに混ざって、微かに甘い香りがした。

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19:52  |  イスカンダル 帰還後のお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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