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2017.03/01(Wed)

若葉の季節 ⑩

ユキは、相変わらず南部の半歩前を歩いていた。

皆と別れてから、どのくらいの時間をこうして歩いているのだろうか。
黙って彼女の後を歩く南部の頬は、夜風に晒されて冷えきっていた。

「ねえ、ユキさん・・・。」

南部は、遠慮がちに声をかけた。

いつの頃からか、南部はユキのことを『ユキさん』と呼ぶようになっていた。
いつまでも『森さん』と呼ぶのは、あんまり他人行儀だ。かといって島や真田のように『ユキ』と呼ぶのはなんとなく気後れがする。そういうわけで、間をとって『ユキさん』に落ち着いたのだった。
相原や太田も『ユキさん』と呼んでいるが、彼らも恐らく同じような事を考えているのだろう。


この事には、古代との関係の微妙な変化も、影響していた。
友人であり、同僚であり、かけがえのない仲間である彼は、同時に、自分たちににとっては上官でもあるからだ。

もちろん、ヤマトに乗った時から彼は既に上官だったわけだが、あの頃はみな幼くて、今にして思えば学生気分が抜けていないものだから、その辺りの線引きは曖昧だった。

しかし、今は違う。
今や古代は、完全に上官なのである。そして、ユキはその古代の婚約者だ。

どちらにしても、『ユキ』と自然に呼べるほど、彼女との関係が親密だという自信も無かった。

―自分とユキとの間には決して越えられない一線がある・・・。

南部は、無意識のうちに、自分の気持ちにロックをかけているのかもしれなかった。
それは、単に古代に対する遠慮というわけでもないのだ。



「なあに?南部さん?」

振り返った彼女は、南部の心の内も知らず、無邪気な笑顔を向けてくる。

「いや、歩くと、結構遠い気がするね。」
「そうね。向こうから見たときは、すぐそこにあるような気がしたけど、案外遠いのね。」

ユキはそう言いながら、白いカーデガンの襟元を直した。

「寒いの?」
「ううん。大丈夫。」

彼女の華奢な肩のラインが月明かりに照らし出されて、暗がりに浮かぶ白いカーデガンが、かえって寒そうな印象を与えた。

「でもさ・・・。」
南部はユキと並んで歩き始めた。
街の外れの通りは、人通りもなく、ただ街灯の明かりだけが道標のようにポツポツと一本道を照らしている。
「今日、本当に、友達の家に泊めてもらうって言って出てきたの?」

「さあ、どうかしら。」

ユキは、歩きながら南部を横目でチラリと見上げた。
そして、すぐに、観念しました、とでも言うように肩をすくめた。

「皆と別れてすぐに、ママに電話したの。だって、みんな、きっと一晩中、飲み明かすつもりなんでしょ。なんだか、羨ましくって。」
そして、前を向いて目を伏せた。
「そしたら急に帰りたくなくなっちゃって。ママに嘘ついちゃった・・・。」

ユキは、小さなため息をついた。

「仕方ないから、今晩泊めてくれるお友達でも探そうかと思ってた所に、南部さんが来てくれたから・・・。つい、英雄の丘に行きたいなんてわがまま言っちゃった。」

ユキは、ごめんなさい、と舌をだした。
その少女のような仕草とは裏腹に、彼女の表情には陰がさしている。

いつの間に、こんな憂いた顔をするようになったのか・・・。


南部は、野暮な質問をしたことを悔やんだ。


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