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2016.11/15(Tue)

若葉の季節 ⑦

防衛軍本部ビルの近くの新しい居酒屋で、懐かしい仲間たちは、久しぶりに顔を揃えた。
島、太田、南部にユキと真田。北上からの高速鉄道が遅れ、待ち合わせの時間に間に合わなかった相原は、途中から合流した。
しかし、彼を待ち構えていたのは、すっかり出来上がった友人たちだった。

「で?久しぶりの故郷はどうだった?」
と島が問えば、
「昔の彼女と再会したとか?」
と、傍から太田が茶々を入れる。
相原は火消しに躍起になっている。しかし、彼が実家の引っ越しで手一杯だったと力説すればするほど、皆面白がって騒ぐのだった。

週末の店は、よく客が入っていた。
店の立地から、客は軍の関係者が多いような気もしたが、年齢層は幅広い。
こざっぱりした店内には、洒落た間接照明のほのかな明かりが、ぽつぽつと灯っている。

みんな、久しぶりの再会を喜んで、よく笑い、よく飲んだ。


「それにしても、地球の復興の速度は凄いですね。」
太田は、今朝帰還してから、何度となく口にしたフレーズを真田に投げかけた。
「そうだな。」
真田は、酒飲みの集団にウーロン茶で付き合っていた。
「それは、地球人類が、長い地下生活を強いられながらも、希望を捨てなかった証だよ。」

真田の言うとおり、地上が本来の姿をこんなに早くに取り戻したのは、何もイスカンダルからもたらされた、放射能除去装置のお陰ばかりではない。
人々は、再び、地上で生活する日に備えて、出来うる限りの『種の保存』に勤めていた。
ありとあらゆる動植物DNAがレベルで保存されていたのだ。
こんなに早い時期に、街に街路樹が植樹され、空に鳥が舞っているのも、いわゆる方舟計画が功を奏したものと言えるだろう。


すると、テーブルをはさんで真田の向いに座っていた相原が、ポツリとつぶやいた。

「でも、俺は、なんだか少し違和感も感じているんです。」

遅れてきた相原はは、すっかり出来あがったみんなに追いつこうと、少々、ペースを速めて飲んでいたらしい。
案外、アルコールには強い筈の彼が、いつの間にか、赤い顔をしていた。

「実家の引っ越しを手伝いながら、その合間に、母さんとも話したんだけど・・・。」
相原の横顔は、薄暗い居酒屋の照明に照らされている。
「なんだか、俺、世の中の変化のスピードについていけてないような気がしてて。」

「と、言うと?」
真田は、他のみんなの顔を見渡しながら、相原に訊いた。
「何か、この新しい街に、しっくりこないところでもあるのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが。」
相原は、口ごもった。
言いたくない、というよりは、うまく言えない、と言った感じだろうか。

すると、そのやり取りを聞いていた南部が、呟いた。
「俺も、何となくわかりますよ。」
そして、南部は、泡の消えたビールを一気に飲み干した。
「俺たちの、あの航海が、今やすっかり過去のものになってしまっているような気がするんです。こうして、生まれ変わっていく街並みを見るのは、嬉しいし、誇らしくもありますがね。でも、このきれいな街の中にいると、ガミラスとの凄惨な戦いが、まるで夢の中の出来事のように思えてくるんです・・・。」

真田は、そうか、とだけ言った。
そして、みんな、それぞれ小さくため息をついた。

「俺が地球を離れている間に、父さんが死んで、母さんは一人で俺の帰りを待っていてくれた。その、痛みはどんなに美しい地球が甦ったとしても、決して無くならないんですよ。でも・・・。」

みんな、静かに相原の言葉を待っている。
少し、アルコールで上気した頭に、彼の悲しみが浸み込んでくるようだった。

「この地球を救ったのは、間違いなく俺たちなんだっていう自負はあるんです。でも、そのために、多くの人が死にました。その事を、この街にいると、忘れてしまいそうになるんです。」

「忘れたいのさ、みんな。」
くちを開いたのは、それまで黙っていた島だった。
「忘れたいのさ。きれいさっぱり忘れてしまいたいのさ。俺だってそうさ。お前だってそうだろう?でも、忘れられない。俺は、今でもときどき、夢に見るよ。いやな夢だよ・・・。」

島の言うとおり、みんな忘れたくても忘れられない思いを背負っている。
それなのに、自分たちの周りだけが、どんどん変わっていく。
まるで何ごとも無かったかのように・・・。


一瞬の沈黙ののち、ユキはパッと顔を上げて、努めて明るい声を出した。
この嫌な空気を払しょくしたかった。

「ねえ、みんな。今日は何のために集まったと思ってるの!?」
そして、少し恥ずかしそうに、あるいは、悪戯っぽく微笑んでいる。
「『私たち』の婚約をお祝いしてくれるって言ったじゃない。」


この急激な復興に一番違和感を感じているだろう、あの男は、今ごろどのあたりを飛んでいるのだろうか。

ユキの一言で、みんなの気持ちは、宇宙のかなたの一人の男に集まっていた。


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