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2016.11/15(Tue)

若葉の季節 ⑥

南部が防衛軍本部ビルの前に着いたのは、約束の時間の1時間も前だった。

自宅からここまではかなりの距離があったが、自分たちが取り戻した地上の世界を堪能しながら歩く道のりなら、何時間かかっても決して苦にはならないから不思議だ。
それだけの体力が彼にはあるし、また、その体力をもて余してもいる。

今回の休暇は2週間。次の任務まではあと数日、休暇が残っていた。
その殆どを、自宅周辺の散策や買い物、友人たちとの飲み会に費やしていた南部は、すっかり鈍った体をもて余しているのだった。

南部は、本部ビルの正面、道を挟んだところにある小さな店でコーヒーとペカンナッツバーを買い、道沿いの公園の木陰に腰を下ろした。
防衛軍本部ビルの周辺は、緑化事業に伴い、公園としてきれいに整備されている。昼時には、防衛軍の関係者のほかにも、周辺の会社員や工事関係者などで賑わっているのだが、日が傾き、風が冷んやりとし始めるこの時間には、人影も疎らだった。


「よう!」

不意に聞き慣れた声が響いて、南部は、飲みかけのコーヒーを口につけたまま振り返った。
艦隊勤務を示す青い制服に身を包んだ男が2人、近づいてきた。

「久しぶり!」

そう言って手をあげたのは、島だった。
隣には、随分早いじゃないか、と言って笑う太田もいる。

「久しぶりだな。」
南部も笑顔で応じると、立ち上がって手を差し出した。
代わる代わる握手をして、3か月ぶりの再開を喜びあった。

「帰還の報告か?」
南部の問いに、島はは笑顔で頷いた。
「ああ。宇宙港から直接、防衛軍本部に報告に来たんだ。約束の時間には少し早いから、太田と喫茶店にでも入って時間をつぶそうか、って話してたら、誰かさんの後姿が見えたもんでね。」
少し、悪戯っぽく笑う島の顔に、南部も嬉しくなった。

「こんないい天気の日に、外に出ない手はないだろう?」
そして、軽くウインクして見せた。
「それで、こんなに早くから、一人でぼんやりしてたってわけ。」


「久しぶりの地球は、一段と復興が進んでるね。」
と感心しきりの太田に、南部も頷く。
「そうだな。俺も帰ってくるたびに、街が広がっていくスピードに驚いてるよ。」

そうして、しばらくの間、再開した仲間たちは近況を語り合った。


「ところで、南部。」
島は、それまでとは打って変わって、少し低い声で訊いた。
「古代とユキが婚約したって、本当か?」
太田も、興味津々の顔で南部の答えを待っている。

「えっ?もう、ひと月以上も前の話だぞ。」
南部の言葉に、なんで知らないの、というニュアンスを感じ取って、島は口をとがらせた。
「俺達、ここ3か月、輸送船団で太陽系をうろうろしてたんだぞ。そんな話、知るわけないだろ!」

─知ってるんじゃないか!
南部は心の中で、こっそり苦笑した。

しかし、島は、相変らずむっとしている。
「だいたい、なんで親友の俺に一番に、直接報告しないんだ。」

とうとう南部は、吹き出してしまった。
「じゃ、誰から聞いたんだよ。」

それに答えたのは、太田だった。
「本部勤務の、通信技官だよ。」
その声にも、微かに笑いが含まれている。

─相原か・・・。

「ふうん。あいつ、みんなにメール飛ばしたんだな。」

そして、南部は、古代の恥ずかしそうな顔を思い浮かべた。古代の事だから、ユキと婚約したなんて照れくさくて、自分からは言い出せなかったんだろう。
ましてや、その相手が島なら、なおさらだ。

「まあ、古代らしいじゃないか。」
南部は、納得がいかない島をなだめながら、ふふッと笑った。

─もし島が、今日、ユキの寂しそうな顔を見てしまったら・・・。

南部は一人、ほんの少し、胸が痛んだ。それは島を思っての事か、ユキを思っての事か、南部自身にも判別はつかない。

街は次第に明度を落とし、空気が冷えていく。
待ちあわせの時間が近づいていた。

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