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2016.11/15(Tue)

若葉の季節 ⑤

昼下がりの東京の街は、汗ばむ程の陽気だった。街路樹の青葉の隙間から洩れる日差しが目にまぶしい。

碁盤の目のように整然と並んだ区画は、一つ一つのブロックごとに、名前や番号ががつけられている。
そのあちらこちらで、ビル建設のための重機が動いていた。

南部は、待ち合わせの時間には早かったが、早々に家を出てきた。
両親との関係は、今のところ良好だが、何となく居心地が悪い。母の穏やかな笑顔を見るのは悪くないが、それを心のどこかで負担に感じる自分もいた。

しかし、父親との冷めきっていた関係には、変化の兆しが見え始めていた。

『そのコーヒー、お父さんのお土産なのよ。康雄はコーヒーが好きだろう、って。』
『へえ…。そうなんだ…。』

母の言葉には、夫と息子の間を取り持ちたい気配が漂っていた。、
しかし、息子は、まだわだかまりを捨てられずにいる。
たった一言『ありがとう』と言えさえすれば、もっと楽になれるだろうに…。


―やっぱり、何か食べてくれば良かったかな…。

南部は、コーヒーを一杯飲んだだけで、出掛けたことを、少し後悔した。

―腹、減ったなあ…。

外の空気が吸いたくて、エアカーにも乗らず、一人で歩いているわけだが、朝から何も食べていない胃袋は、辛抱も限界を越えて、キリキリとした痛みをもって空腹を訴えていた。

しかし、何かを食べるには、中途半端な時間だし、一旦、何かを口にすると、際限なく食べてしまいそうな気もする。
結局、南部は空腹に身をよじる胃袋の訴えを無視して、歩き続けた。

街は熱気を帯びて、繁る若葉の青は、むせ返る匂いを放っている。
自分たちは、この太陽の匂いを体いっぱいに吸い込むために、命をかけたのだ。
ともに戦い、別れた、多くの仲間たち・・・。

南部は、青空を見上げた。

―俺たち、やっと取り戻したんだな…。


久しぶりに会う仲間たちの笑顔を思い浮かべ、防衛軍本部ビルへ向かう南部の足取りは軽い。
北上の実家へ、引っ越しの手伝いのために帰省していた相原が、もうすぐ東京に戻って来る筈だ。島と太田は、今朝、予定通り火星から帰還したとメールが入っていた。
ユキと真田も来る。

―来られないのは、古代だけか…。

南部は、古代が太陽系外周の哨戒任務に就いた日のユキの寂しそうな笑顔を、思い出していた。



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