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2016.11/15(Tue)

若葉の季節 ②

「おはよう。」

南部は、まだ腫れぼったい瞼をしょぼしょぼさせながらリビングに入ってきた。
日が高く上ってからの挨拶にしては、少し間が抜けていたが、起き抜けに顔を合わせた母親に対して、それ以外の言葉を思い付かなかった。

「随分、ごゆっくりね。」

母親は、息子を見上げて微笑んだ。初夏の日の光が差し込む窓辺で、膝の上に小さな端末を開いて、何かしら、目を通しているようだった。

南向きのリビングには、開け放たれた大きな窓から、爽やかな風がそよぎこんでいる。
東京郊外の高台に建つ真新しい屋敷は、南向きの一番明るい場所に、開放的なリビングを配置した、洋風の家だった。

皆が、太陽を渇望していた。

「もう、お昼ね。」

母親は端末の画面を閉じると、台所に向かった。リビングとひとつづきの台所では、既にコーヒーの芳ばしい香りが立ち上っている。この屋敷の者は全員、南部が起き抜けにコーヒーを一杯飲みたがることを知っていた。


ダイニングのテーブルについた南部は、にこやかにコーヒーを運んでくる母親の長い髪が、部屋中を満たす初夏の風に揺れるのを、何気なく見ていた。
こんな、穏やかな日々が再び自分の元に訪れるなんて、一年前には想像もつかなかった。

熱いコーヒーにミルクが円を描いて溶けていく様子を眺めながら、南部は、その身体から心だけが遊離していくような感覚に陥った。
ぐるぐると回りながら、自分の気持ちは次第に、この安らぎから引き離されていく…。

南部は、カップの中身を一気に混ぜて、透明感を無くしたコーヒーを飲んだ。

「いい香りだね。どこで買ったの?」


南部は、微笑む母の匂いの中で、記憶の中に残る、ユキの洗い髪の匂いを探していた。


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