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2009.10/01(Thu)

異変 ⑦

その頃、ユキは医務室にいた。
南部のことが落ち着くまでは、調理場の方幕の内と土門に、第一艦橋の方は太田に、それぞれ任せ、出来る限り医務室に詰めるようにしていた。
生活班長としての彼女の仕事は多岐にわたる。特に、女子乗組員が退艦してからは、多忙を極めていたが、ユキ自身、南部のことが気がかりだったし、またそうすることが艦長たる古代の希望でもあった。

南部の状態は落ち着いている。本来なら、もう職務に戻っても良いはずだった。
しかし、どういうわけか、古代が南部の退院をしばらく引き延ばしてほしい、というのだ。何か、考えがあるのだろうが、ユキにも、真意を話してはくれなかった。


─ピピーッ、ピピーッ。

医務室に、電子音が鳴り響いた。
南部のベッドに取り付けられているセンサーが反応したのだった。

─南部さん、起きたのね。

ユキは、数えかけた薬品の小瓶を棚に戻すと、南部の病室に向かった。

ユキがノックをして入ると、南部はベッドを起こして点滴のしずくを眺めていた。

「南部さん。気分はどう?」
「最高ですよ。」
ユキの問いかけに、南部はニヤリと笑った。
ユキもつられて頬が緩んでしまう。
「顔色も良いようだし、もう大丈夫ね。」
ユキは、残り少なくなった点滴のバッグを目で確認すると、手際よく、検査キットを広げていく。

「また、採血ですか?」
あまりにも不満げな南部の声に、ユキは吹き出してしまった。
「まあ!南部さん、まさか注射が嫌いなの?」
「こんなもん、好きな奴の方が、少ないでしょ。」

実際、南部は注射が嫌いだった。

「それに、この点滴も何とかして下さいよ。もう、いいでしょう?」
「そうね。それだけ言える元気が戻ったんですもの。そろそろ、いいかもね。」
ユキは、手を止めることなく、にこやかに応じた。

あっという間に、ユキは仕事を済ませて検査キットを片づけると、枕元のタオルやカバーを交換した。
「さあ。これで、気持ちよくなったでしょう?」
ユキは汚れものを小脇に抱えて、妙に満足げだ。
「ユキさんに看病してもらってるところ、古代が見たら、怒るかな。」
「ふふっ。さあ、どうかしら。」
ユキはふわりと髪をゆすると、優しく笑った。

「もう、退院していいんでしょう?」
南部は眼鏡をかけると、髪の毛をかきあげた。
「もう、頭痛も目眩も止まったし。これ以上寝てたら、体がなまっちゃいますよ。」
少しやつれてはいるが、こうして話している限り、いつもの南部だ。
南部の問いに、ユキは静かに答えた。
「それは、この検査の結果が出てからね

─嘘だ。   

南部の検査結果はとっくに出ている。どこにも異常はなかったのだ。
ただ、過労とストレス─おそらく古代は、このストレスの元を探りたいのだろう・・・。しかし、今、それを南部に伝えるべきではない。

「どこか、悪いんですか?俺?」
それに対して、ユキはなるべく自然に答えた。
「いいえ。多分、過労だと思うわよ。最近、休む間もなかったんでしょう?」

そして、こう付け加えた。          
「一応、念のためよ。」

ユキは、にっこりとほほ笑んで、いぶかしがる南部の病室を後にした。







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16:07  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/05(Mon)

異変 ⑧

南部は、ユキが行ってしまうと、病室の扉が閉まるのを確認してから、深く息を吐いた。

痛みとは目に見えない凶器だ。
それは、襲われた本人にしかわからない。

本当は、まだ、頭痛も目眩も完全に治まったわけではなかった。

─過労か・・・。
南部は微かに痛むこめかみを押さえた。
─もしかして、ユキさんにバレたかな・・・?

南部は再び、目を閉じた。
点滴の外された左腕には、内出血の痕が青く浮かんでいた。

            ◆        ◆        ◆

相原は、艦長室の窓から、漆黒の宇宙空間を眺めていた。
そこここに、大小さまざまな光点が瞬いている。

相原は、ふと、以前に南部が後方展望室から宇宙空間を見つめていたのを思い出した。
─古代も、ここから南部と同じ景色を見ているのか・・・。

相原の背後では、古代がデスク上のモニター画面を確認しながら、決裁の電子印を忙しく捺していた。
「相原、悪いな。誘っておいて待たせてさ。」
「いいよ。それ、急ぐんだろう?」
「ああ。すぐに済ませるからさ。適当に、コーヒーでも飲んでてくれよ。」
「了解。」

相原は、脇目もふらず書類に目を通している古代の横をすり抜けて、奥の部屋に入った。
艦長室は、手前の執務室と奥のプライベート用の二室が繋がった造りになっている。

「なあ、古代。」
「何だ?」
「お前は紅茶だろう?」
「ああ。淹れてくれると嬉しい。」
「了解。」

相原は短く答えて、サーバーのスイッチを入れた。

12:56  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/05(Mon)

異変 ⑨

相原は、サーバーから立ち上るコーヒーの香りを思い切り吸い込んだ。
─いい豆だな・・・。
カフェインには常習性があるらしい。相原は、典型的なカフェイン中毒だった。

相原は、コーヒーを淹れながら、何気なく古代の方を見た。
その横顔は、既に、艦長のものだった。
訓練学校時代の迷い荒れていた顔とも、沖田艦長に叱咤され必死にガミラスと戦っていた頃の顔とも違う。古代こそが、この艦の責任者なんだと、改めて思う。

二十歳やそこいらで、艦を任された友は、自分の手の届かない処へ行ってしまったような錯覚に陥る。
それと同時に、古代の顔からは、若者らしい快活さが消え、必要以上に艦長の枠に自分を閉じ込めてしまっているようにも思えた。

─微かな嫉妬と憐み・・・。

相原の心が、かさかさと音をたてた。


「ごめん、相原。待たせたな。」

気がつくと、古代は立ち上がって、少し照れくさそうに微笑んでいた。
「いいよ。艦長ともなると、決裁も半端な量じゃないんだな。」
「ああ。俺の一番苦手な仕事だよ。」
古代は、大げさに肩をすくめてみせた。

相原から、紅茶を受け取ると、古代はベッドに腰を掛け、相原に傍の椅子をすすめた。
「普段は、こっちの方が落ち着くんだ。艦長執務室なんて、柄じゃないだろう?」

相原は、今、目の前にいるシャイで物静かな男こそ、本来の古代進なんだと思う。こんな時代に生まれなければ、軍人になんかならなかっただろう。
それは、古代に限ったことではない。俺たちはみんな同じだ。
しかし、望むと望まざるとにかかわらず、俺たちはこの道を歩き始めてしまった・・・。

両手でカップを包んで、背中を丸めるようにして紅茶に口をつける古代の姿が、相原は哀しかった。


「南部のことなんだが・・・。」
古代は、カップを傍のテーブルに置くと、本題に入った。
「近頃、何か変わったことはなかったか?」
「ああ、そうだな・・・。」

相原の脳裏に、酔えない酒をあおって泣いた、あの時の南部の姿がよみがえる。

─言ってしまおうか・・・。

相原は、一瞬迷って目を伏せた。
あの時のことは、誰にも話さずにいた。

「やっぱり、何かあったんだな。」
古代はため息をついた。
「俺にも言えないようなことなのか。」
まっすぐに飛び込んでくる古代の視線を避けるように、相原は何も言えず俯いてしまった。
13:25  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/07(Wed)

異変 ⑩

「エゴか・・・。」
古代は相原の話を聞き終わると、ぽつりと呟いた。
「そうだな。俺たちのしていることは、エゴ以外のなにものでもないのかもしれないな。」
そして、自嘲気味の笑みを浮かべた。

相原は、そんな古代を見て、気がついた。

─この顔・・・。あの時の、南部と同じだ・・・。

「今回の事ってさ、原因は何かひとつの事じゃないと思うんだ。」
相原の言葉を、古代は黙って聞いている。
「うまく言えないけど、なんていうか・・・。少しずつ溜まってきた、膿みたいなものだと思うんだ。」
「膿か・・・。」

おそらく、相原の言うとりだろう。

時間が静かに流れていく。
戦闘さえなければ、ここは、静寂と闇の支配する空間だ。一向に変わらない窓の外の風景が、自分たちの置かれた空間の大きさを物語っていた。

「今回の任務に就く前、暗黒星団帝国との戦いが終わって、俺たちが通常の任務に戻っていた頃、南部と二人で飲みに行ったことがあってな。」

古代は話しながら、視線を手元に落とした。

「南部が言うんだ。『俺たちは何で戦い続けてるんだろう』って。自分は何不自由のない暮らしに妙な罪悪感を抱いて訓練学校に入ったが、そうして得たものは、更なる罪悪感だった、ってね。」
「罪悪感?」
「ああ。人殺しの道具を売ったお金で食べさせてもらってると思っていたら、気がついたら、自分が人殺しになってたって。」
「そんなっ!」

─違う。

しかし、その一言が、どうしてだか口に出して言えない。
相原は、どうしようもなく哀しかった。

「揚羽の乗艦が決まった時も、複雑そうだった。揚羽の会社も南部のところと同業だからね。自分と重ね合わせてたんじゃないかな。『俺は、南部重工の広告塔だぞ!』なんて、冗談めかして言ってたけど。」

「馬鹿だなあ。南部のやつ。」

ため息混じりの相原に対して、古代は不思議なくらい穏やかに微笑んだ。

「俺も南部と同じだよ。人殺しのエゴイストってところだな。」
そして、古代はすっと立ち上がった。
「南部の所に行ってくる。先に戻っててくれないか。」
「了解。」

相原は、冷めきったコーヒーを一気に飲み干した。


14:27  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/09(Fri)

異変 ⑪

南部は、一人、静寂の中にいた。
ベッドに身体を預けて目を閉じると、どこか遠くの方から、腹の底に艦の唸りが響いてくる。艦の上部に突き出た第一艦橋に比べて、医務室が艦の中心部に近い証拠だ。

─俺は、どうしたいんだろう・・・。

もう、自分でもよくわからない。
地球は救いたいが、戦いたくはない・・・そんな都合のよい話は現実にはあり得ないのだから。
この航海が、単に、第二の地球探しで終われない事は、もはや明白だった。

それに、南部は、新人ではない。
年こそ若いが、その実績から、地球防衛軍内部でも中核を担うべき立場にあった。

─仕方ないな・・・。

南部は、半ば諦めていた。
何も今に始まったことではないのだ。
自分のやりたいことと、やるべきこととは、いつもズレている。そのギャップを埋めようとするより、最初から諦めてしまった方が楽だということを、幼いころからの経験で知っていた。
現実を生きるということは、そういうことなのだ・・・。

宇宙戦士訓練学校に入ったのは、自分の意志だった。それこそが、南部重工という父親の呪縛から逃れる方法だと思っていたのに、それが、後々、自分を苦しめる十字架になろうとは。
決意と希望を持って家を出た、十五の春に、どうして予測できただろうか。

─仕方ない・・・。

これは、南部にとって、魔法の言葉だ。この一言は、ざわつく感情を抑え込む、万能薬だった。

─みんなに迷惑かけたな。
南部はゆっくり息を吐いた。
─おかしいと思ってるんだろうなあ・・・。

倒れてから三日、ユキと古代以外に南部を見舞う者はなかった。
相原も太田も冷やかしに来ない。南部自身よりも、周囲の方がナーバスになっているのだろうということは、想像に難くなかった。


その時、不意に、扉の開く気配がして、南部は顔をあげた。

「ノックぐらいしろよ。」

古代が、いつもの照れ笑いで、そこに立っていた。
09:00  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/13(Tue)

異変 ⑫

「随分、良さそうだな。」
古代は、ベッドの傍の椅子に腰をおろした。
「この部屋・・・?良い匂いだな。」

部屋の隅に置かれた加湿器から立ち上る蒸気が、やわらかな香りを部屋中に運んでくれる。

─南部さんが嫌じゃなければ、香りつきにしてあげましょうか?

古代が来る少し前、ユキが、加湿器にアロマオイルを差していったのだ。
無機質な白い部屋に漂う甘い香りは、少し場違いな印象だった。


─カモミールには、鎮痛・鎮静作用があるのよ。
古代は、さっき立ち寄った医務室で、ユキが言っていたのを思い出した。
─南部さん、まだ完全じゃないみたいよ。私には、もう良くなったって言ってるけど。

─まったく、仕方のないやつだな・・・。
古代はユキの報告を思い出して、一人、心の中で苦笑した。

       ◆     ◆     ◆


「砲術班はどうなってる?」       
南部の一番気になっていることだった。
「誰も泣きついてこないところを見ると、俺なんかもう用無しってとこかな?」

南部の言葉を聞いて、古代は、安心した。こんな、軽口が叩けるくらいなら、事態は最悪には至っていないようだ。
古代は、砲術長の代理も立てずにいる現状を、簡単に説明した。

「それなら、なおさら、すぐにでも退院させてくれよ。」
南部はベッドから身を乗り出した。
「慌てなくても、じきに召集をかけるさ。」
ジッと見つめる南部に、古代は静かに告げた。

「その時は、たとえどんなに体調が悪くても、砲術長として、作戦の指揮を執ってもらう。」

南部は、古代の有無を言わせない口調に、一瞬戸惑ったが、すぐにうなずいた。
─大丈夫。出来るさ。これまでも、なんとか折り合いをつけてきたんだから・・・。
「任せとけ。」

古代は、南部の、その一瞬の戸惑いを見逃さなかった。
─やっぱり。まだ、体調が戻ってないんだな。

一瞬の沈黙・・・
均衡を破ったのは、南部だった。
「何か、話があってきたんだろう?」
「ああ。まあね。」
「何だよ。はっきり言えよ。」
すると古代は少し俯いて、呟くように話し始めた。
「実は、俺、南部に謝らないといけない事があってさ。」
「俺に、謝る?」
「ああ。」

古代は、一息ついて、気持ちを振りきるように続けた。
「俺たちは、幾つもの星を滅ぼしてきた。大勢の仲間を失って、ボロボロに傷ついてそうやって手にしたものって何だろうな。」
南部は、ただ、黙って聞いている。
「エゴといってしまえば、その通りだよ。」
南部は、驚いて、古代を見た。古代は、相変わらず、視線を落として話し続けた。
「お前が、苦しんでいることは随分前から知っていた。佐渡先生から、南部が倒れた原因は、過労とストレスだって聞いて、すぐに思い当たった。戦い続けること、ヤマトに乗り続けること自体が南部のストレスなんだろうって。」
南部はもう、言葉もなかった。

「お前は砲術も射撃の腕も一流だよ。だが、それが、余計にお前を苦しめていることも、わかってたさ。」

古代は、顔をあげて、まっすぐに南部を見据えた。
「わかっていて、それでも召集した。ヤマトの砲術長は南部以外には考えられなかったから。」

二人の視線がぶつかった。
先にそらしたのは、古代の方だった。

「古代。もういいよ。」
南部は自分でも驚くほど穏やかな声で話しかけていた。
「俺だって、わかってるんだ。やるべきことは、わかってる・・・。」
目の前でうなだれる古代は、まるで、さっきまでの自分だった。

「わかってても、時々嫌になるんだ。俺は、何してるんだろうって考えたりさ。」
南部は、笑った。
「でも、もういいよ。古代のそんな顔見てたら、どうでもよくなったよ。」

部屋には、相変わらず、カモミールの甘い香りが漂っている。

「俺たちの進む道は、修羅の道だ・・・。」
古代の声が、いつもよりも湿っている。
「自分が、選んだ道さ。」
南部は、納得するしかないと思う。納得できなくても、結論は、同じだ。
軽い頭痛と目眩がする・・・。
─こいつとも、気長に付き合うか・・・。

「この次は、ぶっ倒れる前に一言言ってくれよ。部下の愚痴ぐらい聞いてやるからさ。」
古代は、そう言い残して病室を後にした。

翌日、南部は、職務に復帰した。




14:59  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/15(Thu)

青春の影 ①

─近ごろ、おかしな事ばかりだ。

太田は、変化のないレーダーを眺めながら、考えていた。
相原は、定時交信の時間になるとソワソワし始めるし、南部のヤツはこの前ぶっ倒れて以来、相変わらず顔色が冴えないし。

─まったく、調子狂うよなあ。
太田は、頭の後ろで腕を組んで、席にもたれ掛かった。

計器の発する電子音と、遠くから響くエンジンの低い音が、一定のリズムで絶えず繰り返されていた。
おかしいと言えば、あれ以来、ガルマン帝国の攻撃が止んだのも、おかしな話だ。
あれ程の大艦隊を有する帝国が、ダゴン一人いなくなったからといって、どうにかなるとも思えない。

─この静けさ・・・。なんだか、気味が悪いな・・・。


「浮かない顔だな。何か気になることでもあるのか?」

太田は、突然、真田に声をかけられて飛び上がった。

「いえ!なんでもありません!」
「そうか?それならいいんだが。」

真田もそれ以上は追及しなかった。再び、何事もなかったかのように、自分の前のモニターを見ながら、艦内の各機関のチェックに余念がない。そうしている間にも、絶え間なく、工作班からの報告が上がってきているようだった。

太田は、そんな真田を横目で見ながら、苦笑した。
─だいたい、何でも自分でやらないと気が済まないんだからな。そんなんだから、寝る暇もないほど忙しいんだよ。

実際、真田は忙しい。
艦の補修から、新型機器の開発まで、ありとあらゆる作業を一手に引き受けていた。

─マッドサイエンティストなんて言葉があるけど、科学者なんて、みんな何処かがマッドなんだよ。

太田は、もう一度、誰にも悟られないように、苦笑した。

太田は、さりげなく、後ろを振り返って見た。
相原が、南部に冷やかされている。

─そうそう、南部。その調子で、煽っておけよ。相原のことだ、どうせ地球に帰ったら、大騒ぎするに決まってるんだから。

地球に帰ったら・・・か。

太田は、こっそり、小さなため息をついた。


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16:03  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/16(Fri)

青春の影 ②

古代と島が何か話しこんでいる。次の惑星探査の件らしい。
これまでの調査結果は、全滅だ。
この広い宇宙のどこかにある地球型の惑星を探すなんて、しかも、知的生命体の存在していない星なんて、考えてみれば、気の遠くなるような話だ。地球での事前調査で名前の挙がっていた恒星系の、半分はすでに調査し終えたが、未だ、成果を上げられずにいた。

─古代も辛いところだな・・・。

太田は、再び、何の変化も見せないレーダーに目を向けた。

この航海は、ある意味、イスカンダルへの航海よりもキツい。何がキツいって、何よりまず、俺たちがもはや新人ではない事だ。
それなりの立場、それなりの責任・・・。
初めてヤマトに乗り組んだ時から、俺たちは各部門の責任者だった事に変わりはないが、そんなこと、今から思えば、何の自覚もなかったんだから。ただ、毎日必死に、やみくもに戦ってただけだ。

その違いが、あの古代の表情に如実に表れている。

艦長の風格と言えば、恰好がつくかもしれないが、その一言で片づけてしまうには、古代の背負っているものは、あまりにも大きい。
島だって、南部や相原だって、そうだ。

─もしかしたら、俺もそうなのかもしれないな。
俺たちは、いつの間にか、目に見えない重圧と戦っているのかも知れない・・・。

─あーあ。まったく嫌になる。頼むから、そろそろ、ヒットしてくれよ。

太田が、探査予定地までの航路を再計算し始めた、ちょうどその時・・・。


ズズーーン!

太田は、激しい衝撃に襲われて、床に投げ出された。
─敵襲だ。攻撃を受けてる!
慌てて立ち上がって周りを見回すと、相原も、南部も、同じように床に投げ出されていた。

「太田!ちゃんと見てたのか!」
「レーダーには何の反応もないんだ!」
相原の怒声に、慌てて言い返した。
─レーダーの故障か!?
太田がそう思った瞬間、真田が素早く、レーダーの点検に入る。

その間にも、攻撃は止むことなく、次々とミサイルが着弾する。
戦闘態勢の非常警報が鳴り響く艦内は、パニックに陥っていた。
南部が、コンソールに向かって何か叫んでいる。

「太田!本当に何も映らないのか!?こんな近くから攻撃を受けているんだぞ!」
古代の言葉は、第一艦橋の全員の叫びだ。
「何も反応ありません!」
「レーダーの故障じゃないのか!?」
島も、必死に艦の態勢を立て直しながら、太田の方を振り返った。
「レーダーに異常はないんだ。」
真田も、首をかしげるばかりだった。

レーダーが効かなければ、話にならない。
ヤマトは、見えない敵の攻撃にさらされることになった・・・。
10:12  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/19(Mon)

青春の影 ③

ヤマトは、激しい攻撃にさらされていた。
依然として、敵の姿はどこにもない・・・。
こういう状況になってみて改めて、太田はレーダー手としての責任の重さを痛感した。
しかし、いくら眼を凝らして見ても、レーダーが反応しないものは、どうしようもなかった。

─くそっ!

太田は、拳で操作盤を叩いた。

「太田。ミサイルの出現点を逆探知できないのか?」
古代の問いに答えたのは、真田だった。
「出現パターンが不規則だ。これじゃ、出どころを突き止めるのは難しいな。瞬間物質移送機を使って送り込んできたのかとも思ったが、そうでもない。何か、別の方法できているに違いないんだが・・・。」

「とにかく、このままじゃ、艦がもたないぞ。」
島が、悲鳴にも似た声をあげた。

ヤマトの状況は、悲惨だった。今まで持ちこたえているのが、不思議なくらいだ。
各ブロックから、被弾と損傷の報告が繰り返される。

「相原。何でもいいから、何らかの通信を傍受できないか。」
「今のところ、この空域での通信はありません!」

相原の返答に、古代は、立ち尽くした。
「どうなってるんだ・・・。」

土門が飛び込んできたのは、その時だった。




11:45  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.10/20(Tue)

青春の影 ④

土門が訳のわからないことを言っている。
「潜望鏡を見たんです!」

─はあ?潜望鏡?
太田は、思わず振り返った。

案の定、土門のやつ、相原に怒鳴られている。確かに、潜望鏡の下はどうなっているというんだ。相原の言う通り、ここは宇宙空間なんだ。

「異次元空間にに潜んでいるのでは?」

─はあ?異次元空間?土門のやつ、また、相原に怒鳴られるぞ。

しかし、この土門の突拍子もない話に、真田は何かひらめいたようだった。
「ワープしてみよう。何か、反応があるかも知れない。」
そして、こんなことまで付け加えた。
「異次元に潜む敵を探知するには、亜空間ソナーを使うのが一番だ。」

─亜空間ソナー?
太田は、こんなことを、こともなげに言ってのける真田に、今更ながら、驚いた。

しかし、太田は、もう振り返らなかった。
ワープするのなら、ワープアウト地点の計算に入らなければならない。しかも、事態は急を要していた。予想通り、島から、ワープ計算に入るよう指示が飛ぶ。
それに、異次元だ、亜空間だ、なんていわれても、自分には何の事だかさっぱりわからない。
とにかく、今は、自分のやるべきことをこなすことに集中するべきだ。

土門は、そのまま第一艦橋に残るよう、言い渡された。
太田は、興奮で上気しているであろう土門の顔を想像した。

─若いな・・・。
太田は、新人の熱い雰囲気を背中に感じながら、黙々と職務をこなした。
─土門にとっては、古代の隣に座ることは憧れなんだろうな・・・。

太田は、一瞬、作業の手を止めた。

─土門。それが、どんな意味をもつのか、分かってるのか・・・?古代の、後継者になる覚悟がお前にあるのか?

太田の脳裏に、不意に、苦い記憶が蘇る。戦いの記憶・・・自分たちは、戦い続けている。青春と呼べる年月のほとんどを費やして・・・。

─そんな自覚、あるわけないか。俺たちだって、訳もわからないうちに、階級だけが上がったんだっけ。


「ワープ30秒前。」
古代の、張りのある声が、全艦に響き渡った。

fin


14:24  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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