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2009.09/16(Wed)

南部の憂鬱 ①

南部は、珍しく、後方展望室の窓から、漆黒の宇宙を眺めていた。
バーナード星を後にし、10日が過ぎようとしていた。

─トモ子さんは、無事、地球で赤ん坊を産めるんだろうか・・・。

少しばかり感傷的な自分に気がついて、フッと息を吐いた。口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。


「珍しいな。」
相原が、コーヒーを両手に持って、近づいてきた。

「そう?」
南部は、サンキュー、とコーヒーを受け取ると、再び窓の外に目を向けた。

「特に、変わったものも見えないだろう?」
相原も、南部の隣に立って、窓際の手すりにもたれながら、窓の外に目をやった。
果てしなく広がる漆黒の闇の中に、ポツリポツリと明かりが点ったように、大小さまざまな光点が浮かんでいる。

「たまには、こうして目的もなく、宇宙空間を眺めることだってあるさ。」
南部は、静かに笑った。

相原は、そんな南部を不思議そうに眺めた。
─何かあったのかな・・・。
南部の横顔は、少し、やつれて見えた。ダゴン艦隊と交戦状態に陥ってから、心身とも休まる時がないのかもしれない。もちろん、それは、南部に限ったことではないのだが・・・。

「相原。メシは?」
「もう済ませたよ。」
「時間、あるんだろう?」

─やっぱり変だ・・・。

「ああ。えっと、次の勤務まで、10時間くらいかな。」
「へえ、珍しくまとまって休めるんだな。」
「南部も似たようなもんだろう?」
「まあね。」

南部は手元のカップに視線を落とした。
「一度、戦闘が始まると、不眠不休だからな。こんな時くらい、のんびりさせてもらうさ。」
「そうだな。」

「なあ。」
南部は、コーヒーを飲みほすと、相原の方に向き直って続けた。
「ちょっと、俺の部屋に寄らないか?」
相原は、思わず、南部の顔を見た。南部から、自室に誘われる事はめったになかった。普段は、もっぱら、相原の部屋が、第一艦橋のみんなの談話室代わりだったから。

「いいけど、10時間の休憩時間には、俺の睡眠時間も含まれてるんだけど。」
「それは、俺も同じだよ。」

南部は先に立って、居住区へ向かって歩き出した。






 
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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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08:53  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/17(Thu)

南部の憂鬱 ②

南部の部屋は、士官クラスの居住区画の一番奥まったところにあった。
軍というところは階級がすべてだから、部屋の割り振りも階級順になるはずなのだが、艦長の意向で
『緊急時に一番都合の良い配置』になっている。そういう理由で、本当なら艦の副長クラスが使う部屋が、南部に割り当てられていた。

「相変わらず、無駄に広い部屋だな。」

相原は、南部のデスクの椅子に腰を下ろしながら、部屋を見渡した。
南部の部屋は、6畳ほどの相原の部屋に比べると一回り大きく、ベッドとデスクを配置しても、まだ若干の余裕があった。荷物の持ち込みも制限があるから、そんなに私物は多くないが、ベッドサイドやデスクの上のちょっとした小物が、南部の育ちの良さを感じさせる。

「羨ましいだろ。」

南部は悪戯っぽく笑った。

─戦艦の中という特殊な場所にあっても、時として、それを忘れるくらい穏やかな時間がある
相原が、軍人として最前線に配属されて初めて知ったことだった。

「なあ。相原」
南部は、ベッドの下から何かゴソゴソと出してきた。
「これ。誰かと一緒に飲みたくてさ。」

古いワインだった。

「こんなもの、よく持ち込めたな。」
相原は呆れて南部の顔を見た。アルコールの持ち込みは制限されている。持ち込まなくても、生活班に申請すれば大概の酒類は支給されるし、食堂でも、時間と場面によっては飲めることになっている。無制限に持ち込めるのは、佐渡先生の特権だ。

「砲術長の手荷物を厳密に検査できる生活班員がいると思うか?」
「まず、いないだろうな。]
「だろ?」
相原も、笑うしかない。

「これ・・・。どうしても持ってきたかったんだ。」
南部は相原に向き合って、ベッドに腰かけた。

「特に高級でも何でもないワインなんだけどね。」
「何か、いわれのあるワイン?」
「ああ。」

そう言って、コルク栓にワイン抜きの金具を刺す南部の顔は、いつもの陽気な彼のものではなかった。
12:37  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/17(Thu)

南部の憂鬱 ③

「相原、お前さあ、一人っ子だろう?子供のころ、兄弟って欲しくなかった?」
「ああ。そうだな。お兄さんとか、お姉さんとか、憧れたかな。」
相原は、予想外の質問に、少し曖昧に答えた。

「俺も一人っ子だから、そういうのに憧れててさ。」
南部はワインの栓を抜きながら、話し続ける。
「俺の母親には、歳の離れた妹がいたんだけど、小さい頃は、よく可愛がってくれてね。俺も
『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って、ついて歩いてた。」

「ふうん。はじめて聞く話だな。」

南部はさらに続ける。

「その、お姉ちゃんも、そのうち結婚して、俺が12歳になる年に25歳で子供を産んだ。」

南部はコルクを器用に抜くと、ワインをグラスに注いだ。
そのワインは、深い赤色をしていたが、少し濁っているようにも見えた。

「もしかして、このワイン、その赤ん坊が生まれた年のワインとか?」

相原の、何気ない言葉に、一瞬、南部は驚いたように目を開くと、また手元に視線を戻した。

「そう。その子が生まれた記念に、俺の母親が取り寄せたんだ。お祝いに渡すつもりでね。でも、結局渡せなかった・・・。」
「どうして?」
「子供が生まれたその日、お姉ちゃんは死んだんだ。」

相原は、言葉を失って、南部を見つめた。
南部は、そんな相原に、寂しそうに微笑んだ。

「詳しいことは知らない。ただ、出血が多すぎたって聞いただけさ。」
「そんなことがあったんだ。」

「赤ん坊は、夫の両親が引きとったらしい。」
南部はそういうと、ワインに口をつけた。
「やっぱり、マズイな。」

「南部、そのお姉さんのこと、好きだったんだ。」
「そうかもな。」

南部は、まるで、苦い薬でも飲むように、ワインを飲んでいる。

「お姉ちゃんが死んでから、しばらくして、このワインが家に届いたんだけど、母親は妹の死に取り乱してて、話にならないし。ウチのワインセラーに入れる気にもならないだろう?それで、俺の部屋に転がしてたってわけ。」

「お前が12の歳っていったら、もう10年になるのか。」
「そうなんだ。たまたま、任務と重なってヤマトに乗ることになったから、持ってきたんだけど、そうじゃなかったら、家で一人で飲んでたかもな。」
南部は、ため息をついた。

「今日が、命日なんだ。」

相原も、ワインを飲んだ。
渋みと酸味のきついワインだった。


16:12  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/17(Thu)

南部の憂鬱 ④

「おい。そのくらいで止めとけよ。」
「大丈夫だよ。一眠りするから。」

南部は、ワインを一本空ける勢いで飲み続けていた。

相原は、だんだん、心配になってきた。
「後からくるぞ。」
「構わないさ。」
「南部・・・。」

目の前にいるのは、相原の知らない南部だった。
確かに、南部は、アルコールには強いし、ワイン一瓶空けたくらいでこの後の任務に差し支えることも無いのだろう。だが、こんなに不味そうに飲む姿は見たことがなかった。

「相原。悪いな。つき合わせちゃって。」
南部は最後の一杯を飲み干すと、ため息と一緒に大きく息を吐き出した。
「お前も、少し寝ろよ。」
「うん。そうするよ。」

相原は、南部の様子が気になったが、かえって一人にしてやった方が良いかもしれないと思って、立ち上がった。
「南部も早く寝ろよ。」
「ああ。」

しかし・・・。

─・・・!

部屋を出ようとして、もう一度振り返った相原は、結局、また座ってしまった。

南部が、泣いていた。
「南部・・・!」

南部は、メガネをベッドサイドに置いて、両手で顔を覆った。

相原は、ただ黙って南部の慟哭を聞いていた。

どのくらいの時間そううしていただろうか・・・。

「ごめん。相原。」
「いや。いいよ。少し落ち着いた?」
「ああ。」
俯いた南部の横顔は、青ざめてやつれていた。
「南部。何かあったのか?もしよかったら、話してくれよ。」

南部は何も言わなかった。眼鏡をはずした顔は、まるで別人のようだった。

「南部?」

南部はしばらくして、やっと重い口を開いた。

「俺は、この指一本で、何千何万もの人を殺すことができる。実際、そうやって、戦ってきた。結局、俺は人殺しなんだよ。」
南部は吐き捨てるようにいった。

22:27  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/18(Fri)

南部の憂鬱 ⑤

南部は、ポツリ、ポツリ、呟くように、心に溜まった膿を言葉にし始めた。
「バーナード星で、トモ子さんを助けただろう。彼女が妊娠してるってわかって、地球に送り返したよな。あの時の彼女の笑顔を見て、思い出したんだ。俺が最後にお姉ちゃんにあったとき、同じような顔をして笑ってたなあって。」

相原は、黙って聞いていた。
デスクの上の時計が、カチカチと、乾いた時を刻んでいる。

「お姉ちゃんは、自分の命と引き換えに、新しい命をこの世に送り出した。本当は生きたかっただろうな。自分が死ぬなんて、思ってもいなかっただろう。」
「そうだな。無念だっただろうね。」
「俺は、トモ子さんを見送りながら、何となく彼女のこれからを想像してみたりした。
『元気な赤ん坊が産めるだろうか』とか『どうやって暮らしていくのかな』とかね。」
「案外、なんとかなるものなんじゃないのか。」

南部は、相原の言葉に、フッと頬を緩めた。
「そんなものかも知れないな。だけど・・・。」
南部は一旦言葉を切って、そして核心に触れた。

「もしかしたら、地球の方が何ともならないんじゃないのか。」

「南部!」

「ごめん。それを何とかするために、俺たちはここにいるんだったよな。」
南部は自嘲気味につぶやいた。
「そして、戦いに巻き込まれて・・・。俺はまた、人を殺すんだ・・・。地球のために。」

「南部。もうやめろよ。そんな風に考えたって、辛くなるだけじゃないか。」
相原は、言葉を選んで続けた。
「俺たちは、今までもそうだったように、これからも、精一杯生きていくだけだ。明日も生きるために、戦ってるだけだ。」

「エゴだよ。」

相原は、そう呟いた南部を、ジッと見つめた。
─いつから、こいつは、こんなに追い詰められていたんだろう・・・。

南部は続ける。
「地球を守る、人類を守る。そのために戦って人を殺す?そんなの矛盾してるだろう?」
「じゃあ、黙って死んでいくのか。滅びをただ待つっていうのか?」
「・・・。」

「なあ。南部。イスカンダルが消滅したときのこと、覚えてるか?」
相原の問いに、南部は黙ったままだ。

「俺は、あの時、実は無性に腹がたった。スターシアさんが、宇宙の平和を願った気持ちは疑わない。
しかし、自分の愛する人たちを、悲しみの淵につきおとしておいて、宇宙の平和もあったもんじゃないってさ。」

今度は南部が驚く番だった。相原が、そんな風に感じていたなんて、ちっとも知らなかった。

「俺たちは何のために生きてるんだ?地球のためとか、人類のためとか、そんな大それたことのために生きてるんじゃないはずだろう?」
「・・・。」
「俺たちは、自分と、自分の大切な人たちのために生きてる。それでいいじゃないか。」

「相原。俺はわからなくなったんだ。10年前、たった一人の死に驚きうろたえた俺が、今じゃ、人の死に慣れっこになってる。こうして10年たっても、その命を想って涙が流れるのに、俺は明日も仲間の屍さえ越えて、戦わなきゃならない。」
南部は、空のワインボトルを見つめていた。


09:25  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/18(Fri)

南部の憂鬱 ⑥

「俺、才能があったんだなあ。射撃、火器の扱い、照準の合わせ方・・・。艦載機の操縦以外は、どれをとっても古代にだって引けを取らない。だけどさ、微妙な誤差を修正して、目標に正確に当てて、そうして、少しずつ俺の心は麻痺していくんだ。」

「でも南部のその才能のおかげで、俺たち、何度救われたか分からないぜ。」
相原は、努めて明るく言った。

「相原は、なんとしても、この航海を成功させたいと思っているだろう?」
「えっ。」
「第二の地球を見つけて、もう一度、あの人に会いに帰るんだろう?」
「あっ。ああ。」
「俺も、同じ気もちさ。もう一度、地球に帰りたい。」

そして、南部はまた悲しそうに笑った。
「だけど、やっぱりそれってエゴだよ。」
「南部・・・。」

「俺たちはエゴにまみれて生きていくしかないんじゃないのか。」
相原はそう言い放った。
「生きるって、きれいごとじゃないよ。」

「そうだな。」

南部は、それ以上答えなかった。相原にも、答えは出せない。

沈黙が支配した部屋に、時計の音だけが響いていた。
09:48  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/19(Sat)

異変 ①

それは、突然始まった。
─頭痛と目眩。

ダゴン艦隊との戦いに勝利したヤマトは、次の惑星探査に向かって、銀河系の中心方向を目指していた。

─まただ・・・。

南部は、みんなに悟られないように、眼鏡を直す振りをして、そっと、こめかみを押さえた。

はじめは、目の奥の方に僅かに違和感を感じる程度だった。しかし、痛みは日増しに強くなって、気がつくと、鎮痛剤に頼らなければならない程になっていた。

「南部?どこか具合でも悪いのか?」
「何でもないよ。」
相原が隣の席から覗き込んでいる。不思議と相原は、こういう時に動物的な勘が働いて、人の不調を言い当てるのだ。

「加藤の所に行ってきます。」
南部は古代に一礼すると、第一艦橋を後にした。

南部は格納庫に下りて行った。次の作戦計画を練らなければならなかった。
─くそっ・・・。
頭を締め付けられるような痛みに、目の前の通路が歪んで見える。
─マズイな。
鎮痛剤も効かなくなってきているようだった。
─何なんだよ・・・!勘弁してくれよ・・・。

南部は、静かに崩れ落ちた。

第一艦橋では、今後の探査計画について、意見が交わされていた。
「全滅だな。」
真田の言葉に、みんな、ため息をつく。
「候補に挙がっていた恒星系は、ことごとく、駄目だったな。」
島も浮かない顔だ。
古代は、黙って、腕を組んだままだった。

古代、島、真田の三人は、艦橋中央に集まっていた。
「それに、ガルマン帝国・・・。どうも気になる。」
「どう気になるんだ、島。」
真田の問いかけに、島は言いにくそうに続けた。
「戦法、戦術、それに艦載機や空母。どこか、ガミラスに似ているような気がするんです。」

重苦しい空気が流れる中、相原のコンソールに着信を知らせる電子音が響いた。

─ピピーッ、ピピーッ。

「はい。第一艦橋、相原。」
「こちら、医務室の森です。」
ユキだった。

「艦長、いらっしゃいますね?」

「古代だ。」
「艦長。至急、医務室においで下さい。」
ユキの声が、心なしか上擦っている。
「どうしたんだ?」
「南部さんが、運びこまれたんです。」
「どういうことだ!?」
古代は、思わず、大きな声を出した。
「格納庫付近で、意識を失って倒れていたようなんですが・・・。」
「南部が!?」
古代は、突然のことに言葉を失って、立ち尽くした。

「とにかく、早く来て下さい。」

ユキは上ずった声でそれだけ言うと、通信を切った。




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16:03  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/20(Sun)

異変 ②

「艦長!」
相原の声で、古代は我に帰った。ハッとして振り返ると、みな一様に、信じられないという顔だ。

「とにかく、医務室に行ってくる。後は任せたぞ。」
それだけ言い残すと、古代は第一艦橋を飛び出して行った。

沈黙を破ったのは、島だった。
「南部のやつ、そんなに体調が悪かったのか?」

真田も、太田も首を捻るばかりだ。
その中で一人、相原だけは、さっきの南部の不自然な仕草を思い出していた。

「そういえば、さっき、南部が格納庫に下りる前、ちょっと様子が変だった・・・。」
「どういうことだ?」
「南部は、何でもないって言ってたけど、眼鏡に手をやりながら、こめかみを押さえてた。」
「本当か?」
「うん。顔色も良くなかったし・・・。多分、頭が痛かったんじゃないかな。それで、眼鏡を直すふりをして、こめかみを押さえたんだと思う。」
「お前、そういうことは早く言えよ!」
「だって、まさか倒れるほど深刻だなんて、思わなかったから・・・!」

相原と島のやり取りに、太田も口を開いた。
「そう言われてみれば、この間も、あれっ?て思うようなことがあったな。」

それは、二日前のことだった。
「あの日は、俺と南部が当直だったんだ。それなのに、南部のやつ、珍しく時間に遅れてきた。
それに、少し顔色が悪いような気がしたから、ちょっと気になって
『具合でも悪いのか?』って訊いたんだ。その時も南部は
『大丈夫。何でもないよ。』って」。
もしかしたら、少し前から、体調を崩してたのかも知れないぞ。」

「あの馬鹿!何で倒れるまで黙ってるんだ!」
島の苛立った様子に、みな、押し黙ってしまった。
「まあ。艦長が様子を見に行ったんだから、しばらく待とうじゃないか。」

真田の言葉を受けて、とりあえず、みんな、持ち場にかえるしかなかった」
03:41  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/21(Mon)

異変 ③

南部は、医務室の奥の部屋で眠っていた。
吊り下げられた点滴のバッグからポツポツと落ちる液体が、音も無く、南部の体に浸み込んでいく。無機質な室内には、取り付けられた機器の電子音だけが響いていた。

─南部・・・。

古代は静かにベッドに近づいた。そして、起こさないように気をつけて、その青ざめた顔を覗き込んだ。

─やつれたな・・・。

古代は小さくため息をついた。眼鏡を外して横たわる南部の顔は、生気を失い、まるで別人のようだった。
「古代くん・・・。」
「ユキ。どういうことなんだ?」
「ここでは、話しにくいわね。出ましょう。佐渡先生も、お待ちよ。」

ユキに促されて扉に向かいながら、古代はもう一度、ベッドの上の南部を振り返って見た。南部は相変わらず、静かな寝息をたてて眠っている。
─もしかしたら、最近はこうしてゆっくり眠ることも出来なかったのかな・・・。
古代は、先頃までのダゴン艦隊との激しい戦闘を思い出して、胸が痛んだ。

隣の診察室で、佐渡は待っていた。
「古代、来たな。」
「先生。一体、どういうことなんですか。」

佐渡は、古代を向かいの椅子に座らせると、穏やかに話し始めた。
「過労とストレス。多分、そんなところじゃろう。」
「過労とストレス?」
「そうじゃ。どうやら、頭痛と目まいがひどいらしい。ここに運ばれてきたときには、こちらの問いかけにも満足に答えられんような状態じゃったが、今は、鎮痛剤が効いて、落ち着いておる。」
佐渡はさらに続けた。
「検査の結果、特に重篤な疾患につながるような問題は見つからなかった。考えられるのは、過度のストレスぐらいなんじゃが、何か心当たりはないかのう?」

古代はにわかには信じられなかった。

11:33  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/23(Wed)

異変 ④

古代の足取りは重かった。
医務室から第一艦橋まで、こんなに遠く感じたのは初めてだ。古代は、改めて、自分がショックを受けているんだと感じた。

─過労とストレス。

今回の航海で、南部の負担が増えていることはわかっていた。艦長になった自分の代わりに、常に班員の状態を把握し、気を配ってくれていた。ガルマン帝国と交戦状態に陥ってからは、休む間もなかっただろう。

とにかく、南部には休養が必要だ。
しかし、南部の穴を埋められる人材はいない。古代にしても、艦長と戦闘班長を兼務した上、砲術長の職務まで引き受けるのは、無理だった。


第一艦橋では、皆、古代の帰りを待っていた。
「艦長!」
「古代!」
皆が、立ち上がって古代の傍に駆け寄ってくるのを無言で制し、た。

「南部なら大丈夫だ。頭痛と目眩がひどいらしいが、特に悪い病気ではないそうだ。今は、薬が効いて眠っているが、このまま、しばらく休養させれば落ち着くだろう。」

古代の言葉に、一応、ホッとした空気が広がる。

「しかし、艦長。何でもないのに、南部ほどの男が、気を失って倒れるとは思えんが・・・。」
真田だけではない。ここにいる皆、まだ、半信半疑だった。

「うん・・・。それが・・・。」


「過労とストレス!?」
大きな声を出したのは、島だった。
「南部がか?」
にわかには信じられない。
「そりゃあ、南部の職務は元々ハードだし、特に今回は古代が艦長になった分、戦闘班を実質取り仕切っていたから、それなりにプレッシャーはあっただろうが・・・。」

島の言いたいことはわかる。
─今回に限ってなぜ・・・?

みんなの知る限り、南部は心身ともにタフな部類に入る人間だ。これまで、何度も視線をくぐり抜けてきたはずだった。

17:30  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/29(Tue)

異変 ⑤

すぐに、箝口令が敷かれた。

単に、砲術長が過労で倒れたというぐらいのことなら、それがすぐにクルーの士気にかかわることも無いだろうと思いながらも、古代は心に何か引っかかりを感じて、この件は、公にしない方が良いだろうと判断したのだった。

しかし、これは、実際はあまり有効ではなかった。
狭い、ヤマト艦内でのこと、アッという間に噂は駆けめぐる。特に、普段から、まめに班員とコンタクトを取っている南部の不在は、すぐに知れ渡ってしまった。
                

15:51  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.09/29(Tue)

異変 ⑥

南部が倒れてから、3日が過ぎようとしていた。
次第に、艦内に動揺が広がっているようだった。

古代と相原は、食堂からの帰りに、通路で溜まって話し込む、砲術班の新人のグループを見かけた。

「どうした?」
相原はさりげなく声をかける。
「あっ、いえ。何でもありません。」
彼等は直立不動で、敬礼した。
「何でもないんなら、持ち場に戻れよ。」
「はいっ。」

相原の穏やかな口調とは対照的に、新人たちは蜘蛛の子を散らすように走って行った。

相原は肩をすくめた。
「古代。」
相原も、二人きりの時は呼び捨てだ。
「南部の復帰の見通しは?」
「まだ、何とも・・・。」
古代のあいまいな返事に、相原は表情を曇らせた。
「まだ、そんなに悪いのか?」
「いや、随分と良くなってるよ。」

しかし、そういう古代の声は、沈んでいた。

幸い、今のところ、ガルマン帝国の艦隊には遭遇せずに済んでいるが、この穏やかな日々がいつまでも続く筈もなかった。銀河系の中心へ向かう航海は、戦いの中心へ向かうことでもあった。

しかも、結局、砲術長の代理は立てていなかった。当面は古代が、また、一旦ことが起これば坂巻あたりが砲術管制を仕切ることになるのだろうが、古代は、艦長として、その点もはっきりさせてはいなかった。

「良くなっているんなら、何で復帰の見通しが立たないんだ?」
「ちょっと、気になることがあってな・・・。」
「気になることって?」

古代は一瞬立ち止まった。
そして、少し困ったような顔で相原を見上げた。
「相原。少し、時間あるか?」

相原は、黙って、古代の後についていった。



16:26  |  宇宙戦艦ヤマトⅢのお話  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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